日銀が進めるデジタル通貨についての研究
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- 2019.12.03.
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中国では中央銀行に相当する中国人民銀行がデジタル通貨を発行する準備を整えていることが報じられていますが、日本でも遅ればせながらではあるものの、日銀がデジタル通貨についての研究を進めているようです。
日銀のwebsiteには「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」報告書と題された内容がUPされており、この内容からは具体的な方針は読み取れないものの、デジタル通貨発行に向けての法律的な問題点を協議していることが分かります。
デジタル通貨発行に際しての法律的な問題点や解決しなければならない点とはどのようなものなのでしょうか。
詳しくご説明しましょう。
日銀がデジタル通貨法律問題の報告書を公開
日本の中央銀行である日本銀行が「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」の報告書を2019年9月27日付けで公開しています。
画像引用:日本銀行
この報告書は日本銀行金融研究所が報告したものであり、研究会は商法や会社法、金融法などを専門として、東京大学名誉教授であり学習院大学法務研究科教授でもある神田秀樹氏を座長として、他に9名の金融や経済などの専門家メンバーで構成されています。
報告書がまとめられた背景として
近年では、中国でデジタル通貨発行が予定されているだけでなく、諸外国でもデジタル通貨に対する関心は非常に高まっており、それに伴って各国中央銀行からデジタル通貨に対する報告書が次々に発表されてきています。
また環境として金融業界における技術革新や決済方法の多様化など、以前とは明らかに状況が変化しつつある現実から、単なる金融システムとしての確立だけでなく、経済に対する影響も検討していかなければなりません。
そこで、デジタル通貨発行における多方面の課題を抽出、整理していく必要が出てきた旨が記述されています。
議論の前提となった4種のデジタル通貨
この報告書ではデジタル通貨を検討するにあたり、大きく4種類に分類しています。
分類の仕方としては、口座タイプかトークンタイプか、そしてそれぞれに直接タイプと間接タイプを設定して議論しています。
口座タイプとは中央銀行である日本銀行が、直接個人や一般企業に対して銀行的な業務をおこなうものです。
トークンタイプは通貨、日本の場合は円をデジタル通貨に置き換えることになり、中央銀行としての役割は従来のままとなります。
また直接タイプは中央銀行がデジタル通貨を発行するのに対し、間接タイプでは一般銀行を経由してデジタル通貨を流通させることになります。
これら4種類のタイプを想定して議論したとされています。
デジタル通貨発行時における課題
デジタル通貨を発行する際に検討すべき点は、日本においてそもそもデジタル通貨の発行が日本銀行法に沿っているものなのかということだったようです。
日本銀行法とは日本銀行が中央銀行として銀行券の発行だけでなく、通貨と金融を調整し、金融機関との決済をスムーズにするとともに秩序を守ることを目的として定められた法律です。
ここで問題になってくるのが、銀行法では銀行券は「有体物」、つまり形あるものと定義しています。
これから考えるとデジタル通貨を銀行券と位置づけることは難しいこと。
さらに、デジタル通貨を金融機関との決済に用いるだけでなく、個人や一般企業にまで広げることに関しても難しい点も挙げています。
デジタル通貨流通における課題
デジタル通貨は発行だけでなく、流通においても様々な課題を内包しています。
大きな問題としてクローズアップされるのは、どうやってデジタル通貨をコントロールするのかということです。
上記の4種類のどのパターンでも、日本銀行がデジタル通貨を発行することになりますが、
デジタル通貨にはブロックチェーン技術が活用されているため、誰が、いつ、どこで、何に使ったのかのデータが全て記録されることになります。
つまり日本銀行が全てのデータを掌握することになり、権力の集中化につながってしまうということになりかねないわけです。
特に4種類の区分の中で、日本銀行が個人や一般企業に銀行業務的なことをおこなう直接タイプの場合、これらの情報を全て入手できることになってしまいますが、個人情報はどのように扱うべきなのかという課題が生じてきます。
もちろん一般銀行を経由してデジタル通貨を発行する間接タイプであっても、個人情報の扱いについての課題が存在することに変わりなく、これまで以上に個人情報を適切に扱う必要があります。
犯罪に利用される危険性
デジタル通貨はこれまでの通貨と比べ、犯罪に利用される危険性も危惧されます。
偽造しやすさ
現在の日本銀行券は偽造されないための工夫が随所に施されています。
例えば使用されている紙にはミツマタやマニラ麻が使用され、手触りが独特です。
透かしや小さな文字をデザインに紛れ込ませるマイクロ文字、ブラックライトで発光する特殊インクやホログラムなどです。
しかしデジタル通貨の場合にはこれらは活用できず、しかも偽造にはそれほどコストがかかりません。
また一度に大量のデジタル通貨を偽造されてしまう危険性もあります。
マネーロンダリングやテロ支援資金供与
デジタル通貨や仮想通貨の大きな欠点でもあるのがマネーロンダリングやテロ支援資金供与のしやすさです。
これを防ぐためにG20など世界的な会議の場で何度も話し合われていますが、この課題を解決するには非常に多くの問題があります。
まず不審な口座などを特定しなければなりませんが、どうやって、誰が特定するのか。
そしてその口座でデジタル通貨の取引ができないようにしなくてはなりませんが、誰の権限で、どのようにおこなうのでしょう。
問題は山積みです。
デジタル通貨発行には法整備が必要
上記の説明でも分かるように、デジタル通貨を発行するには大きな問題が山積みです。
特に法的な問題が大きく立ちはだかっており、簡単に発行できる問題ではなさそうです。
しかも法整備をするとしても、その範囲は非常に広く、日本銀行や一般銀行の位置付けもこれまでとは変わってきてしまいます。
これらを考え合わせると、法整備を実施するだけでも時間がかかるだけでなく、中央銀行や一般銀行の組織改革も並行しておこなわねばならないことが理解できるでしょう。
中国のデジタル通貨の狙いとは
デジタル通貨の発行における課題を整理してみると、改めて中国のデジタル通貨発行の狙いを伺うことができます。
もちろん中国という共産主義国家だからこそ、習近平国家主席の鶴の一声で成しえるのでしょうが、そこには国民の個人情報を全て把握する狙いが裏にあるはずです。
中国政府はこのことに関して否定していますが、これまでの情報統制などの事例からはとてもその発言を信じることはできません。
まとめ
日銀が進めているデジタル通貨に関する研究報告書について、その内容を簡単にご説明しました。
日銀は、この報告書はデジタル通貨を発行するためのものではないとし、黒田総裁も現時点ではデジタル通貨を発行する予定はないと2019年11月19日に開催された参議院財政金融委員会で明言しています。
またこの調査は、将来デジタル通貨が必要になった時に備えてのものであることも説明しています。
しかし確実に世界はデジタル通貨に向けて動いています。
黒田総裁は、どのような状態になった時が必要な時だと判断するのでしょうか。
日本がデジタル通貨の波に乗り遅れることが、世界経済の波に乗り遅れることにならないよう、願うばかりです。