取引所のマネロン対策強化でダークネット利用増
- 仮想通貨関連
- 2020.07.21.
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- 取引所のマネロン対策強化でダークネット利用増
仮想通貨は過去に不正や犯罪に利用されることが多かったため、以前は一般の人々からのイメージは決して良いとはいえませんでした。
しかし近年は仮想通貨をマネーロンダリングなどの不正行為や犯罪に利用できないよう、仮想通貨取引所におけるKYC(本人確認手続きなどのこと)なども徹底されてきています。
そのせいもあり、近年では仮想通貨の不正取引は減ってきていることが報告されていました。
このことに関しては2020年3月7日のニュース記事「仮想通貨の不正取引は意外と少なく件数も減少傾向」内でもご説明していました。
しかしここにきて、ビットコインがダークネットのミキシングサービスに送られているケースが急激に増えていることが、ブロックチェーン分析企業によって発表されました。
ダークネットのミキシングサービスとはどのようなもので、そこに送られるビットコインはどの程度増えているのでしょうか。
このニュースについて詳しくご説明しましょう。
ダークネットに送られるビットコイン急増
インターネットの裏サイトとともいうべき、ダークネットのミキシングサービスに送られるビットコインのボリュームが、最近急激に増えていることをブロックチェーン分析企業であるCrystal Blockchain社が発表しました。
Crystal Blockchain社のブログによると、ダークネットのミキシングサービスに送られているビットコインのボリュームは、2019年第1四半期は300万ドルだったものが、2020年第1四半期には6,700万ドルへと一気に膨らんでいるとのことです。
なおダークネットのミキシングサービスに送られているビットコインのうち、特に増えているのがAML(anti-money laundering:マネーロンダリング対策)を強化している仮想通貨取引所からの流入量で、その増加率は2019年第1四半期より29%増となっているとしています。
さらにダークネットに流入しているビットコインのうち他のダークネットを経由、つまりダークネットを二重に経由しているビットコイン量は2019年の第1四半期には10%であったが、2020年の第1四半期には19%にまで増えているとのことです。
ミキシングサービスとは
ミキシングサービスとは、仮想通貨取引に際して複数の取引データをミックスすることで、利用者のプライバシーや匿名性だけでなく、資金の流れをたどられないようにすることができるサービスのことです。
ビットコインなどの仮想通貨のほとんどは、取引履歴がブロックチェーン上に記録されます。
特に仮想通貨取引所がAMLやKYC規制に取り組んでいる場合、その仮想通貨取引所にビットコインなどを預けると、どこの誰が、誰に送金したのか、購入したものは何かまで紐づけされてしまいます。
しかしミキシングサービスを利用すると、そのビットコインの取引履歴は完全に消去されてしまうため、履歴を追跡することは不可能になります。
取引履歴が消去されるからといって、通常のミキシングサービスが全て犯罪に利用されているとはいい切れません。
例えば国家安全法が施行された香港では、資産を移すために利用されている可能性があります。
また通貨危機に陥ってしまった国では、政府が資金の流れを厳しく監視しますが、その目から逃れるために利用されているケースもあります。
このケースは、最近ではベネズエラがあてはまるでしょう。
ただしこれらのミキシングサービスは一般的なもので、誰でも利用しようと思えばできるものですが、特定のホストコンピュータが割り当てられていないアドレスにあるダークネットは全くの別物です。
2017年から2019年の仮想通貨不正利用
冒頭でご説明したニュース記事「仮想通貨の不正取引は意外と少なく件数も減少傾向」内でも紹介していた、調査分析会社Chainalysis社が発表した2017年から2019年の仮想通貨不正利用に関する内訳の推移グラフを改めてご紹介しましょう。
画像引用:Chainalysis blog
上記グラフの黄色い部分が、ダークネットでの取引量をあらわしています。
このグラフによると、ダークネットの取引量は2017年より2019年は大幅に減少していることが示されています。
つまり、このグラフ以降にダークネットでのビットコイン取引量が大幅に増えたということになるわけです。
ダークネットでのミキシングが増えた背景
では上記のように、ダークネットでのミキシングサービスが増えた理由とはどのようなことが考えられるのでしょうか。
ダークネットのミキシングサービスがどのような目的で利用されているのかは、ブロックチェーン分析会社などの調査結果が発表されるのを待つしかありませんが、増えている背景については以下のようなことが考えられます。
取引所の規制強化
世界的な動向として、仮想通貨取引に対する不正行為や犯罪行為を規制する動きが強まっています。
例えばFATF(資金洗浄に関する金融活動作業部会)によるAML対策やテロ資金供与対策の審査が、従来は銀行や証券会社などの金融機関だけでなく、仮想通貨取引業者も対象とするようになってきたことも影響しているでしょう。
これによって、仮想通貨取引所もKYCやAML対策などを強化していく必要が出てきました。
つまり、不正取引や犯罪行為がしづらい環境になってきていることが挙げられます。
ミキシングサービスの閉鎖
ミキシングサービスがどのようなものかは上でご説明しましたが、仮想通貨におけるAML対策やテロ資金供与対策が重視されるようになってくると、必然的にミキシングサービスに対する風当たりも強くなってきます。
そのためミキシングサービスは続々と強制停止や閉鎖されています。
2019年5月にはBest Mixerが停止させられ、同年6月には大手ミキシングサービスのBit Blenderが閉鎖に追い込まれました。
現在はBitmixやChipMixerが稼働していますが、風当たりの強さを考えるといつまで続くのかは厳しいところでしょう。
またこれら以外にも、ウォレットにWasabi Walletを利用するとミキシングができるなどの方法もありますが、Wasabi Walletにも風当たりは強いといえます。
つまり、ミキシングサービスが減ってきていることもダークネットに流れる一因になっていると考えられます。
まとめ
ダークネットの仮想通貨ミキシングサービスへのビットコイン流入量が増えてきていることについてご説明しました。
2019年時点ではダークネットへの流入量が減っていたにもかかわらず、2020年に入ってから急増している理由は、Crystal Blockchain社のブログには記述されておらず、データが示されていただけですので、あくまでも推測に過ぎません。
ただ仮想通貨取引所のAML対策が充実しつつあるからこそ、不正行為や犯罪行為がダークネットに流れていることは揺らぐことのない事実でしょう。
今後はビットコインなどの仮想通貨が、ダークネットに流れるのをどうやって防ぐかということが規制の中心になっていくのかもしれません。