金融庁がマネーロンダリング対策を打ち出す
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- 2019.04.28.
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2018年12月、金融庁は、銀行や仮想通貨交換業者を含むすべての金融機関を対象に、マネーロンダリング・テロ資金供与防止のための関連データを報告するよう命令を出しました。
これまでも仮想通貨取引においては「マネーロンダリング(資金洗浄)の温床になりやすい」との見方がありましたが、今回の報告命令で金融庁は実態把握に踏み出した形です。
本記事では、金融庁が出した報告命令の内容やその背景、金融庁のこれまでの取り組みなどついて、くわしく説明していきたいと思います。
金融庁が仮想通貨業者に対し資金決済法にもとづく報告命令を出す
2018年12月、金融庁は仮想通貨業者に対し、資金決済法にもとづく報告命令を出しました。
命令を受けた仮想通貨業者が報告する内容には、口座数や預かり額のほか、仮想通貨取引の追跡を困難にする技術を使っている顧客数の推移なども含まれています。
仮想通貨交換業者には、法人・個人の口座数、預かっている法定通貨、仮想通貨の額のほか、匿名性が高いと認識している仮想通貨について、保有する顧客の口座数や預かり額の報告を求めた。
取引のある海外取引所の詳細のほか、個別の仮想通貨取引を追跡できなくする「ミキサー」や「タンブラー」と呼ばれる技術を使う顧客の2017年4月から18年12月までの推移を報告することも求められている。
引用元⇒ロイター 金融庁、マネロン対策で報告命令 銀行や仮想通貨業者など=関係筋
なぜ今?金融庁がマネーロンダリング対策を打ち出した3つの背景
この時期に金融庁がマネーロンダリング対策を打ち出した背景には以下の3点があります。
- FATFの審査が今秋に迫っている
- 「疑わしい取引」が過去最多となった
- 過去の調査の不十分さ
1つ目は、FATFの第4次対日相互審査が2019年秋に迫っているということです。
ちなみにFATF(金融活動作業部会/Financial Action Task Force)とは、マネロン・テロ資金供与対策の国際基準(FATF 勧告)の策定や、各国におけるFATF勧告の遵守状況の審査等をおこなう政府間会合のことです。
1989年の1989 年の G7 アルシュサミット経済宣言を受けて設立されました。
そのFATFがおこなう第4次審査では、2012年の勧告に即した法令整備がおこなわれているかという技術的遵守状況(Technical Compliance:TC)にくわえ、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインの有効性についての審査がおこなわれる予定です。
法令の整備状況が中心的な審査項目であった前回の第3次審査と比べ、次回の第4次審査では、金融機関と金融庁の双方がリスクベースで対策を実施しているかが重点的に審査されることに備えたものと考えられます。
第4次審査では、金融機関等及び当局の双方がリスクベースで実効的な対策を実施しているかが審査の重点とされており、こうした点も踏まえた官民の連携強化が求められる。
引用資料⇒金融庁 マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題
2つ目は、2018年に警察庁が受理した「疑わしい取引」の件数が、前年比4.3%増で過去最多となったことです。
特に、仮想通貨交換業者から寄せられた「疑わしい取引」の届け出は、前年の10倍以上と大幅に増えています。
仮想通貨交換業者における疑わしい取引の参考事例として、金融庁は以下のようなことを挙げています。
- 顧客の収入や資産に見合わない高額な取引
- 短期間のうちに頻繁に行われる取引で、現金による仮想通貨の売買の総額が多額である場合
- 架空名義口座又は借名口座である疑いが生じた口座を使用した仮想通貨の入出金
- 通常は取引がないにもかかわらず、突如多額の仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換が行われる口座に係る取引
参照サイト⇒金融庁 疑わしい取引の参考事例
このような状況を受け、金融庁はより実効的な対策に踏み切ったと想定されます。
3つ目は、金融庁がこれまでに行ってきた調査の不十分さです。
平成30年1月に起こった国内仮想通貨取引所(当時、金融庁へ登録申請中のみなし業者)からの仮想通貨流出事案をふまえ、金融庁は所管する仮想通貨事業者へ順次報告命令を出し、実態把握につとめてきました。
具体的には、立入検査やトップ面談をおこなうことで、事業者の意識改革をもとめてきたのです。
しかし、金融庁へ提出される対策案がひな形通りのものであったり、内部監査体制が不十分だったりということがあり、金融庁の幹部は懸念を強めていたようです。。
これら3つが、金融庁が仮想通貨事業者を対象にマネーロンダリング対策を打ち出した背景にあります。
仮想通貨取引をめぐる金融庁のこれまでの取り組み
金融庁はこれまでにも仮想通貨取引に関する対策を講じてきました。
まずは国際的な動向から確認しますと、仮想通貨取引については、平成27年のG7エルマウ・サミット首脳宣言やFATF(金融活動作業部会)ガイダンスにおいて、「利用者の匿名性が高いこと」「資金の移動が迅速かつ容易であること」などの特徴から、マネーロンダリング対策の対象とすることを求めていました。
このような国際的な要請を背景に、金融庁は平成29年4月から仮想通貨交換業者の登録制度を開始します。
登録プロセスには、役員ヒアリング・書面審査・訪問審査を盛り込みました。
しかし、前述のした通り、みなし登録業者から巨額の仮想通貨が流出する事案や、その後の実態調査でも十分な実態把握につながらないなどの課題があり、今回の対策に踏み切った形です。
参照サイト⇒警察庁 犯罪収益移転防止に関する年次報告書 平成29年(20ページ)
参照サイト⇒金融庁 仮想通貨交換業者の登録審査プロセス
仮想通貨取引はマネーロンダリングの温床となりうるのか?
ここまでの内容を読み、
「そもそもブロックチェーン技術を採用している仮想通貨がマネーロンダリングの温床になりうるのか?」
といった疑問を抱いた人もいると思います。
ブロックチェーンとは仮想通貨に用いられている中核技術の名称で、過去の取引履歴すべてを改ざん不可能な形で記録するもので、「分散型台帳技術」とも呼ばれます。
仮想通貨の特徴について「分散して管理されている」「全履歴は世界中に公開されている」「それゆえに、データの改ざん不可能」ということを聞いたことがある人も多いでしょう。
このようなブロックチェーン技術の特徴を鑑みると、不正なルートで仮想通貨を入手してもすぐに足がつきそうに思えます。
しかし実際には、仮想通貨取引をマネーロンダリングに使用することは可能で、実例もあります。
仮想通貨でのマネーロンダリングの手口
仮想通貨をマネーロンダリングする方法としては、不正に入手した仮想通貨を小分けにして複数のウォレット間で移動(送金)を繰り返し、追跡を面倒にしてしまうという方法が挙げられます。
これは、現金におけるマネーロンダリングの手法と同様です。
ただ現金の場合は、口座から引き出してしまえば足取りを追うのは困難ですが、仮想通貨の場合は硬貨や紙幣といった実体がなくオンライン上に電子データとして存在していますので、追跡すること自体は可能です。
そのため仮想通貨おけるマネーロンダリングでは、ウォレット間の送金を繰り返すだけではなく、種類の異なる仮想通貨間で売買を繰り返すことでより洗浄力を高めているようです。
さらに、本人確認の必要がない海外の取引所や、一般公開されていないサイトを経由して現金化するという手口もあり、こうなると足跡をつきとめることは非常に困難となってしまうのです。
参照サイト⇒coincheck 仮想通貨のマネーロンダリングとは?手口や個人の対策方法は?
まとめ
金融庁が出した報告命令の背景には、FATFの審査が今秋に迫っていることや、取引実態を把握できていないことへの懸念がありました。
「報告命令」という形ではありますが、実態は官民連携し、最新動向や課題・解決のあり方について情報を共有していくことだとも述べています。
今後は、対策の実施状況や成果を適格に把握し、改善箇所を継続的に検証していくことが必須となっていくでしょう。