麻薬捜査でビットコイン63億円相当が押収される
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- 2020.02.21.
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- 麻薬捜査でビットコイン63億円相当が押収される
仮想通貨は犯罪に活用されることが多く、そのために世界中でマネーロンダリング対策やテロ支援資金供与対策が重要視されており、FATF(金融活動作業部会)なども活動を展開しています。
しかし犯罪で得た利益を仮想通貨にするなどの手口は依然多く、今後もその対策は充実させていく必要があるといわれています。
そんななか、アイルランドの麻薬捜査において63億円相当のビットコインが押収されたとのニュースが飛び込んできました。
いったいどのような手口だったのでしょうか。
このニュースについて、詳しくご説明しましょう。
アイルランド犯罪資産局が約63億のビットコインを押収
アイルランドの裁判所が、麻薬の密輸にかかわった人物の資産6,200万ユーロ(およそ75億円)を差し押さえました。
なお差し押さえ資産のうち、5,200万ユーロ(およそ63億円)は仮想通貨ビットコインであることを地元メディアであるIndependent.ieが報じています。
画像引用:Independent.ie
麻薬密輸に関わり、資産を差し押さえされたのはアイルランドの首都ダブリンの南にあるクラムリン出身のClifton Collins(49)です。
検問時に運転していた車の車内から大量の大麻が発見されたため、アイルランド当局によってギャラウェイにある自宅が捜索されました。
その際、大麻の苗木が大量に発見されたようです。
これらのことから被告は薬物乱用法など多くの罪で告発され、ブレイ地方裁判所に出廷し、供述によって薬物の販売と供給に関与していると判断されました。
また被告の資産を調べたところ、総資産は6,200万ユーロ(およそ75億円)にも上り、そのうちの5,200万ユーロ(およそ63億円)はビットコインであることが分かりました。
被告はビットコインの初期の頃から密輸で得た収入を投資していたようで、それによって巨額の利益を得ていたようです。
裁判所もビットコインへの投資資金は麻薬密輸で得たものと結論づけたようです。
なお、アイルランドCAB(犯罪資産局)は被告の資産差し押さえを申請しており、被告もこの申請に対して異議を申し立てていなかったため、裁判所もアイルランドCABの申請を認める判断をしました。
これによってアイルランドCABは被告のビットコインを凍結。
裁判所が承認しなければ、ビットコインはウォレットから移動させることができなくなりました。
投資によって莫大になった資産
Clifton Collins被告は麻薬密輸によって得た利益とはいえ、ビットコインの運用初期の頃から投資していたため、ビットコインの資産が63億円にまで膨らんだとされています。
全資産75億円のうちビットコインが63億円あったということは、残りの12億円はおそらく法定通貨ということでしょう。
被告のビットコインへの投資額がどのぐらいであったのかは報道されていませんが、これだけの資産があったということは、それなりの額をビットコインに投資していたことが想像されます。
それにしてもビットコイン運用初期の頃から投資していれば、これほど資産は大きく膨らむのだということが分かる実例といえます。
仮想通貨が犯罪に利用されやすい理由
今回の麻薬密輸事件の犯人は、報道によると密輸で得た利益をもとにしてビットコインに投資していたということですが、どうして仮想通貨が犯罪に利用されやすいのでしょうか。
それは、誰に対しても個人情報を明かすことなく取引ができるという点です。
つまりビットコインなどは、個人のIDなどにリンクすることのないアドレスで保管されており、そのアドレスから別の人のIDにリンクしていないアドレスに送金することができるということです。
過去にビットコインを利用して取引されていた闇サイトの実例をご紹介しましょう。
なお紹介する闇サイトはどちらも既に運営者が逮捕され、閉鎖されています。
「シルクロード」の例
シルクロードは違法薬物や銃、流出したクレジットカード情報などを取り扱い、売上高は時価12億ドル(当時のビットコインで950万BTC以上)であり、仲介手数料も8,000万ドル(60万BTC以上)とされた闇サイトでした。
シルクロードにアクセスするためには、IPアドレスを暗号化ツール「Tor」で暗号せねばならず、決済も匿名性の高さと利用者が特定しづらいビットコインのみとなっていました。
「アルファベイ」の例
違法薬物や有毒物質、盗品、身分証明書の偽造、マルウェアやハッキングのためのツール、銃などを取り扱っていた闇サイトがアルファベイです。
上記のシルクロードと同様に、アクセスするためには暗号化ツール「Tor」が必要だったようで、FBIの発表によると10億ドルを超える額のビットコインでの取引がおこなわれていたとのことです。
なお運営者の逮捕は、欧州刑事警察機構やアメリカ、タイ、オランダなど8ヵ国の法執行機関の相互協力がなければ実現できなかった事例とされています。
仮想通貨が捜査を難しくしているとの指摘も
仮想通貨が犯罪捜査を難しくしているとの指摘もあります。
オーストラリアABCがUNODC(国連薬物犯罪事務所)のNeil Walshサイバー犯罪プログラム局長に対して取材した内容が、2019年8月29日に報じられており、その中で仮想通貨がサイバー犯罪だけでなく、マネーロンダリングやテロ資金調達などへの対策を難しくしていると述べています。
画像引用:ABC.net
さらにこれらの犯罪には、世界中の子供の児童ポルノや人身売買も含まれていることを指摘し、仮想通貨は多くの人が知っているよりも広い範囲で取引されていると述べています。
そして、仮想通貨の特徴であるプライバシーが守られる点が犯罪を助長することにつながっていることも主張しています。
また、これらのことからも政策を立案する際には、仮想通貨がどう影響するのかも考慮して欲しいとも説明していました。
犯罪利用は過去のもので現在は少ないとの声
上記のように仮想通貨が犯罪に利用されるだけでなく、犯罪を助長するとの声がある一方で、それらは過去の話で、現在はそのようなことは少ないと説明する人も存在しています。
ビットコインは犯罪者が使いづらい通貨
英国マン島に拠点を置く仮想通貨取引所CoinCornerの共同設立者であるDanny Scott氏は、犯罪にビットコインが使われたのは過去のことだと主張しています。
ビットコインに匿名性があると考えるのはもはや神話に近く、過去の全ての取引履歴がブロックチェーンに記録されているため、犯罪に利用するのに最も望ましくない通貨だと述べています。
仮想通貨ミキサーのわずか8.1%が犯罪由来
問題のある仮想通貨と何も問題のない仮想通貨を混合することで、問題ある過去の情報にさかのぼることを難しくするサービスが仮想通貨ミキサーですが、これが不正な仮想通貨を洗浄する手段として使われているという説があります。
しかしマネーロンダリングなどの調査を手掛ける分析企業Chainalysis社が、2019年8月14日に発表したデータによると、仮想通貨ミキサーに送られる仮想通貨の内、ダークネットから送られてくるものは2.7%であり、犯罪がらみの仮想通貨は8.1%ほどでしかないとしています。
まとめ
仮想通貨は犯罪がらみで利用されることが多いため、規制しなくてはいけないというのがG20やFATF、IMF、金融庁などの考え方であり、世界的にもスタンダードなものになっています。
もちろん仮想通貨が犯罪に利用されることは皆無とはいえないものの、それほど多くはないようです。
さらに今後、世界的にAML対策が進むと、犯罪に利用される確率は一層減ることが考えられます。
AML対策は必要ではありますが、本文内でもご説明したような、ビットコインなどの仮想通貨に匿名性があるということは「神話」であり、現在では最も犯罪に使いづらい通貨であるということを多くの人に知ってもらう必要もあるのではないでしょうか。
そしてそれが周知された時こそ、本当に仮想通貨を使いこなせるようになった時なのかもしれません。