中国が5月からデジタル人民元の本格テストを開始
- 仮想通貨関連
- 2020.04.23.
- ニュース
- 中国が5月からデジタル人民元の本格テストを開始
中国で中央銀行発行のデジタル人民元のテストが進みつつあることは、2020年4月16日のニュース記事「中国で進展するブロックチェーンとデジタル人民元」内でもご説明したとおりです。
その記事では、デジタル人民元のテスト用アプリがリリースされたことをご紹介していましたが、いよいよデジタル人民元を2020年5月から試験的に運用することが決まったようです。
そのテストはどのような形でおこなわれるのでしょうか。
また中国以外の国におけるデジタル通貨発行に向けての動きは、現在どのようになっているのでしょうか。
これらのニュースについて詳しくご説明しましょう。
中国でデジタルウォレットアプリのテスト開始
中国がデジタル人民元のテストとして、先日リリースされたデジタルウォレットアプリを使い、中国農業銀行などの職員に対して支払いを実施することが分かりました。
このことは、仮想通貨やブロックチェーン経済関連情報のメディアであるBlockonomiが、2020年4月17日に報道しています。
画像引用:Blockonomi
Blockonomiの「中国政府の従業員がPBOCのデジタル元を最初に取得」と題した記事によると、中国農業銀行職員の5月分の通勤費について、その半分をデジタル人民元で支払うようにするとのことです。
またBlockonomiは、ブロックチェーン関連技術の投資会社であるPrimitive Ventures社の設立パートナーであるDovey Wan氏がTwitterで報告していることも紹介しています。
画像引用:DoveyWan Twitter
ツイートの内容は以下のようなものです。
PBOCは本日、正式な中国庭園で知られる上海に隣接する美しい街、シューチョウで初めてDCEPをテストすることを正式に確認しました。
テストケースでは、国有銀行の従業員の通勤償還の半分をデジタルRMBの形式で支払います。
引用:DoveyWan Twitter Google翻訳
Blockonomiによると、これら以外のテストとして江蘇省地方政府の全職員の通勤費もデジタル人民元で支払うとした情報だけでなく、今後江蘇省以外の3つの省でもテストを実施する予定であることも報じています。
中国のデジタル通貨進展が他国を刺激
中国がデジタル人民元の開発を加速させているのは、もちろん他国に先駆けて発行にこぎつけることで世界の基軸通貨である米ドルに対抗する目的があるからですが、新型コロナウイルスの感染拡大も大きく影響しています。
2020年4月8日のニュース記事「新型コロナウイルスがデジタル通貨の普及を加速」内でもご説明した通り、紙幣や硬貨に付着した新型コロナウイルスによって感染が拡大していることを中国政府は懸念しています。
そのため元々早く発行したかったデジタル人民元を、より加速化させているわけです。
そしてその動きは諸外国にも強く影響しています。
諸外国もデジタル法定通貨の開発は多かれ少なかれ視野に入れていたはずですが、新型コロナウイルスの感染経路として現金が考えられるだけでなく、中国の動きに触発されたことにより加速させています。
デジタル通貨に消極的だった国々の動き
中国のデジタル人民元が発行に向けて加速していることで、それまでデジタル法定通貨発行に消極的だった国々にも変化が起こっています。
特に米国では中国の動きを警戒し、デジタル米ドルの開発をFRB(連邦準備制度理事会)が前向きに検討し始めていることが報告されています。
また日本では、日本銀行が既に検証活動をおこなっていることが知られています。
さらに発展途上国においても、その国独自のデジタル法定通貨発行を検討し始めていることが分かっています。
デジタル通貨に積極的な国々の動き
これまでもデジタル法定通貨に比較的前向きに取り組んでいた国々も、その開発・発行に向けての速度を加速させる動きが出ています。
フランスでは2020年3月末に、これまで以上の幅広い情報を収集することを目標として、テスト実施に向けて動き始めています。
またドイツでもデジタル法定通貨発行に向けての計画が進みつつあります。
韓国におけるデジタル通貨事情
上記の国々とやや背景が異なるのが、韓国におけるデジタル法定通貨事情です。
韓国にとって中国は脅威となりえないことや、新型コロナウイルスの感染拡大も落ち着き始めていることなどから、他国と異なり独自の目的意識を持ってデジタル法定通貨開発を進めているようです。
韓国では中央銀行にあたるBOK(韓国銀行)が、2020年4月初めから22ヶ月間に渡るデジタルウォンのパイロットプログラムテストを始めています。
実は今の時期からテストを始めたのは、日本や米国などの先進国が当初はCBDCを発行する予定がなかったものの、最近になって動きが活発になってきていることから、静観しているだけでは他国にCBDCの主導権を奪われてしまうとの警戒感からだったようです。
BOKが米や日本のCBDCに対して警戒していることは、韓国メディアであるThe Korea Timesの「韓国銀行はデジタル通貨の発行に向けて動きますでも報道されています」と題した記事の中でも触れられています。
韓国銀行(BOK)は月曜日、それが米国や日本などの先進国によってとられている同様の措置に沿って、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の可能な発行のための計画を再調整していると述べました。
引用:The KoreaTimes Google翻訳
画像引用:The KoreaTimes
つまり韓国国内でデジタル法定通貨に対するニーズが急に高まったわけではなく、元々は将来に備えておく程度のものだったようです。
しかし他国、特に米国と日本が積極的に開発を進め始めたため、一気に進めることにしたということになります。
民間主導のデジタル通貨にも動き
中央銀行発行のCBDCではないものの、民間主導で進められているデジタル通貨にも動きがあります。
それが、フェイスブックが進めるリブラプロジェクトです。
リブラは元々、複数の法定通貨にペッグしたステーブルコインとして構想されていましたが、多くの国々の金融規制当局からの反発もあって、1つの国の法定通貨にペッグしたステーブルコインを新たに計画しているようです。
このことは2020年4月18日のニュース記事「仮想通貨リブラの方針転換と取り巻く環境」でもご説明した通りです。
そして注目すべきは、新たに計画しているステーブルコインは、CBDCとも連動させたい考えがあるということです。
つまり、ここにきて急速に開発が進んでいるCBDCと連動させるステーブルコインの構想を、既に視野に入れているということになります。
まとめ
中国のデジタル人民元が5月から本格的にテストを開始することとその背景、そしてその影響によって世界中の国々がCBDCの開発を加速させていることについてご説明しました。
デジタル人民元の開発が加速しているのは、新型コロナウイルスの影響が非常に大きいですが、ウイルスが世界中の国々のCBDC開発を推進することになっているのは、非常に皮肉なものです。
CBDCがあちこちの国から発行されるようになった時、世界はどのようになるのでしょうか。
世界の勢力図にも変化が起きるのでしょうか。
できることならCBDCが単なる世界の主導権争いなどに使われるのではなく、利便性を高め、日本や各国の経済に貢献でき、世界経済の発展に役立ってほしいものです。