昨年の仮想通貨盗難は日韓で増加
- 仮想通貨関連
- 2019.04.27.
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- 昨年の仮想通貨盗難は日韓で増加
2019年1月、アメリカにある仮想通貨セキュリティー企業・サイファートレース(Cipher Trace)社は、「2018年中に盗難被害に遭った仮想通貨は17億ドル(約1,900億円)」とする調査レポートを公開しました。
この金額は、昨年(2017年)の3.6倍におよんでおり、うち58%は日韓が占めています。さらに、そのうちの半分を占めるのは、日本の仮想通貨取引所コインチェックで起こった仮想通貨流出事件が原因です。
このニュースを聞かれた方は、
「仮想通貨マーケットが冷え込んでいるのに、なぜ仮想通貨盗難金額が増加しているの?」
「具体的にどういった手口で仮想通貨が盗難されているのか知りたい」
と疑問をお持ちになったはずです。
そこで本記事では、サイファートレース社の調査レポートに記載されている内容をもとに、2018年の仮想通貨盗難の実態と背景についてご説明していきたいと思います。
2018年の仮想通貨盗難被害の実態
2019年1月にサイファートレース社が公開した「仮想通貨アンチマネーロンダリングレポート」によると、2018年に盗難や詐取の被害にあった仮想通貨の額は、17億ドル(約1,900億円)相当。
この数字は、2017年の3.6倍、2016年の7倍以上にのぼります。
画像引用⇒サイファートレース 仮想通貨アンチマネーロンダリングレポート(6p)
盗難件数は大幅に減少しているにもかかわらず盗難被害額が増加しており、不正行為1件あたりの被害額が大きくなったことが特徴です。
ところで、17億ドルというのはあくまでサイファートレース社が検証できた金額であり、サイファートレース社は「実際の損失額は、17億ドルよりはるかに大きいだろう」と見ています。
盗難被害額17億ドルのうち9億5,000万ドル以上は、仮想通貨取引所やユーザーのウォレットから盗まれました。
また、17億ドルのうち58%(約9.8億ドル)は、日本と韓国から盗難されました。
画像引用⇒サイファートレース 仮想通貨アンチマネーロンダリングレポート(6p)
「犯罪者たちは2020年までに資金洗浄する必要がある」と指摘
調査レポートは「犯罪者たちは盗んだ資金を実社会で使うために、2020年までに資金洗浄(マネーロンダリング)を行わなければならない」と指摘。
これは、国際アンチマネーロンダリングと反テロ資金規制が2020年から実施されることに言及したものです。
相場下落でもなぜ増えた?仮想通貨盗難増加の背景
日本で「仮想通貨元年」と呼ばれた2017年は、世界規模で仮想通貨市場が過熱した1年でした。
2017年12月には、ビットコイン(BTC)が過去最高値を記録します。
一時は1BTC=2万米ドル(約220万円)に達し、仮想通貨投資によって1億円以上の資産を築いた人を指す「億り人」という言葉がテレビなどマスコミで聞かれるようになったのも2017年後半あたりからです。
しかしその後、世界各国の当局で規制強化の動きがあった影響もあり、仮想通貨マーケットは下火になりました。
ビットコインの価格もピークだった頃の半分以下になるなど、「仮想通貨バブル」は急速に減退していきました。
このように、マーケットとして見ると仮想通貨相場は冷え込んだにもかかわらず、仮想通貨盗難被害額が急増したのは背景には何があるのでしょうか。
いくつかの事例とともにひもといていきたいと思います。
背景1. 出口詐欺(Exit Scams)の急増
仮想通貨を用いた資金調達に「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」がありますが、2018年はICOによって投資家から集めた資金を企業や団体が持ち逃げする「出口詐欺」の事例が横行しました。
実際の事例をいくつかご紹介します。
【ベトナム】ピンコイン(Pincoin)で730億円相当の出口詐欺
2018年4月、ベトナムに拠点を置くスタートアップ企業・モダンテック(Modern Tech)が、ピンコイン(Pincoin)というトークンを売り出し、32,000人の出資から約6億6000万ドル(約730億円)の資金調達をおこないました。
しかしその後、企業メンバー7名は集まった資金を持ってベトナム国外へ逃亡してしまい、出資者へお金が戻ることはありませんでした。
参照サイト⇒tuoi tre news Vietnamese cryptocurrency scam allegedly deceives thousands to swindle $660mn
【韓国】取引所ピュア・ビット(Pure Bit)でおこなわれたICOで3億2,000万円の出口詐欺
2018年11月、韓国で2番目に大きな仮想通貨取引所ピュア・ビット(Pure Bit)でおこなわれたICOで、130,000ETH(約3億2,000万円)の資金が集まりましたが、ICO運営者が調達した資金を持ち逃げる事案が発生。
本事案は、取引所ピュア・ビットが首謀者のアカウントを凍結し、被害拡大を食い止めました。
参照サイト⇒CCN South Korean Crypto Exchange Pure Bit Exit Scams with 13,000 Ether: Report
背景2.規制の遅れ
サイファートレース社のデーブ・ジェバンス最高経営責任者は、ロイターのインタビューで、規制当局の対応に遅れがあることを指摘。
サイファートレースのデーブ・ジェバンス最高経営責任者(CEO)はロイターのインタビューに応じ「規制当局の対応は数年遅れの状態にある。強力な資金洗浄(マネーロンダリング)取締法を本格的に適用している国はごくわずかだからだ」と語った。
参照サイト⇒ロイター 仮想通貨盗難被害、今年1─9月は1000億円超に急増=報告書
横行する仮想通貨詐欺や盗難に対し、各国および国際的な対策が追いついていないことも被害額が拡大した一因だといえます。
背景3.【日本】仮想通貨取引所コインチェックから巨額のNEM流出
被害額の大きさでは、日本の仮想通貨取引所コインチェックから巨額の仮想通貨が流出した事件にふれないわけにはいきません。
2018年1月に発生した本事案では、580億円相当のNEMが流出しました。
2018年1年間の日韓の仮想通貨盗難額合計がおよそ1,100億円ですので、コインチェックの流出額だけで、日韓における損失額全体の半数以上を占めているのです。
自主規制団体発足のきっかけに
世界的にも注目が集まったコインチェックの事案をきっかけに、日本の金融庁は仮想通貨交換事業者への取り締まりを厳格化しました。
2018年は多くの事業者が業務改善命令を受け、内部体制やセキュリティー対策を見直すきっかけとなりました。
2018年10月には、仮想通貨交換事業者の自主規制団体「一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)」が金融庁によって正式認定。
マネーロンダリングに関する規則を遵守することを織り込んだ資料を公表するなど、市場の信頼回復に向けて動き出しました。
仮想通貨盗難被害を防ぐために個人でできること
ここまで仮想通貨の盗難について見てきましたが、被害を防ぐために個人レベルでできることもあります。
それは、自身の所有する仮想通貨はなるべくオフラインのハードウェアウォレットで管理するということです。
ハッカーがアクセスをはかるオンライン上から物理的に切り離すことで、ハッキング被害を受けるリスクを下げることができます。
ただし、この対策も残念ながらじゅうぶんとは言えず、あくまで「オンライン上で管理するよりは被害の可能性を下げられる」ということです。
ウォレット自体の盗難やパスワード忘れによって仮想通貨が取り出せなくなる事例もあとを絶たないからです。
また、海外ではハードウェアウォレットのパスワードを聞き出すために、ウォレット所有者を監禁したり暴行したりといった犯罪事件も発生しています。
仮想通貨投資をしていることや、「いくら儲けた」と利益を自慢するような話はSNS上でも控えるべきでしょう。
まとめ
サイファートレース社のレポートにもあったように、仮想通貨やICOに関しては政府当局の対応が追いついていないのが現状です。
万一被害に遭ってしまった場合の救済措置も不十分ですので、投資家ひとりひとりが仮想通貨投資のリスクをしっかり理解した上で、自己責任で取引をおこなう必要があるでしょう。
参照サイト⇒金融庁 ICO(Initial Coin Offering)について~利用者及び事業者に対する注意喚起~