遅れつつも日本で進み始めたCBDCの検討
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- 2020.02.05.
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- 遅れつつも日本で進み始めたCBDCの検討
フェイスブックの仮想通貨リブラと中国のデジタル人民元の発表は、世界中の金融関係者に大きな衝撃を与えました。
仮想通貨リブラは色々な障害ゆえに進展はあまりしていないようですが、中国のデジタル人民元は着実に進んでいるようです。
仮想通貨リブラとデジタル人民元は、結果的に多くの国々のデジタル通貨発行を促すことにつながり、幾つかの国は確実にその歩みを進めています。
そして日本も遅ればせながらではありますが、やっと重い腰を上げCBDCを検討し始めたようです。
また自民党も政府に対し、デジタル通貨発行に関する提言をおこなうことを決めました。
これらのニュースについて詳しくご説明しましょう。
日銀がCBDCに関するフォーラムを開催
日本の中央銀行である日本銀行が、2020年2月27日に「決済の未来フォーラム:中銀デジタル通貨と決済システムの将来像」と題したCBDCに関するフォーラムを開催することを2020年2月3日に発表しました。
画像引用:日本銀行 公表資料
フォーラム開催の目的と背景
このフォーラムの開催の目的について、日銀は本来決済の仕組みをより効率的にするとともに安全性の維持と改善が責務であるとし、その中でデジタル通貨に対しても理解を深めるために色々な取り組みをしていくことが重要だと説明しています。
また現代は技術革新が進んでおり、決済技術も日々進化していることから、今後CBDCに対する社会的なニーズが高まってきた際にも対応できるよう、調査研究していくことを述べています。
そしてこのフォーラムを通じて、金融決済に関する有識者と現在の決済に関する課題解決方法だけでなく、CBDCを発行することのメリットやデメリットを議論し、理解を深めていきたいとしています。
日銀が考えているデジタル通貨の意義
日銀は公表資料の中で、ステーブルコインが登場した背景として既存の決済サービスの欠点を補うものとして登場していると説明しており、さらにリテール決済だけでなく、金融機関同士の大口決済などに活用されるホールセール決済にも活用されることが考えられているものの、民間企業にこれらを全て任せることに対するリスクも言及しています。
すなわち、国民が日常的に決済や送金などで使用することだけではなく、企業間の大口決済やトークンの決済、外国為替との取引決済などを視野に入れ、リテール決済とホールセール決済を別々にするのかどうかなども検討することを考えているようです。
フォーラムのプログラム内容
このフォーラムは金融機関だけでなく、企業や大学で決済や決済技術に関する知識がある人からの参加を呼び掛けており、募集人数は最大で150人程度となっています。
なおフォーラムでは最初に日本銀行決済機構局から論点の提示がおこなわれ、それに対してディスカッションが行われる形式で進行されます。
ディスカッションのテーマとしては、以下の3つが挙げられています。
1.リテール決済サービスの市場構造
2.ホールセール決済における技術革新
3.クロスボーダー送金の新たなスキーム
引用:日本銀行 公表資料
自民党が今春にもCBDC提言を取りまとめ
日本経済新聞の2020年1月23日の報道によると、自民党がCBDCに関する提言を今春までにまとめ、政府に提出する意向であることが分かりました。
画像引用:自民党
提言の方向性
提言では特にCBDCを導入する際の個人情報の保護やマネーロンダリングについて重要視しており、これらのことについて提言をまとめていくようです。
デジタル通貨は、いつ、誰が、どこで使ったかなどがデータとして全て保存されることになり、そのデータを持ったまま流通することになります。
そのため脱税はしにくくなり、盗難も受けにくくなるものの、その一方で個人データ漏洩にもつながりやすくなります。
またデジタル通貨はハッキングやサイバー攻撃の対象となりやすいため、盗難のリスクは高まり、資金洗浄に利用される可能性も高くなります。
加えてデジタル通貨ゆえの偽造されやすさもあります。
つまりデジタル通貨を発行することは、個人情報の保護以外にも刑法も関連付けて視野に入れておかねばならず、関連法案のことも考慮して個人情報保護とマネーロンダリングに重点を置いた内容となっているとのことです。
スタートアップ企業への支援
自民党のCBDCに関する提言書の中には、CBDC開発に不可欠なブロックチェーンに関する記述も含まれるようです。
特にスタートアップ企業などがブロックチェーン技術を開発する際のバックアップ施策、そしてこれらに対応する企業や人材の育成にも提言は及んでいると報道されています。
自民党関係者のCBDCに関するこれまでの動き
これまで自民党関係者はCBDCに関してどのような活動履歴があるのでしょうか。
自民党の岸田文雄政調会長を本部長とする経済成長戦略本部が、政調会長代理として新藤義孝氏をスウェーデンに派遣し、スウェーデン中央銀行幹部と意見交換をしています。
スウェーデンはCBDC「eクローナ」のパイロットテストを2019年、既に実施しており、2021年には運用を開始する予定になっています。
また山本幸三氏を会長とする金融調査会は、カンボジアのCBDCである「バコン」をカンボジア中央銀行と共に開発したブロックチェーン開発企業ソラミツに対してヒアリングをおこなっていることが報じられています。
CBDCに関する提言をおこなう背景
前段でご説明したように、日本銀行はCBDCの必要性や課題、問題点などの洗い出しをおこない、日本におけるCBDCのあるべき姿を模索しているようです。
その一方で、自民党が政府に提出するCBDCに関する提言は、個人情報保護やマネーロンダリングなどを主としたものであり、日本銀行のスタンスと比べやや早計に映ります。
そこにはどのような意味があるのでしょうか。
日経新聞の報道では、自民党は確かにCBDCに関する議論を急いでいること、そしてその背景には中国のデジタル人民元の存在が指摘されています。
すなわちデジタル人民元が発行・運用されると、利用されたデータが中国人民銀行に全て集まることになり、利用状況が全て中国に筒抜けになってしまうわけです。
このことは浅川雅嗣アジア開発銀行総裁が議連会合で講演しています。
さらに甘利明税制調査会長は、デジタル人民元が発行されると米との覇権争いに影響することを指摘しており、政府に警鐘を鳴らしたい旨を述べています。
本サイトではこれまで中国のデジタル人民元の本当の目的について何度も解説してきていますが、改めて説明しておきましょう。
人民元の目的は大きくふたつあります。
ひとつは自国民をコントロール下に置くためのものです。
デジタル人民元が導入されると、誰が、どこで、何にデジタル人民元を使ったのか、把握することができます。
すなわち、個人情報を全て把握することができるのと同時に、反乱分子を容易に特定することも可能になるわけです。
そしてもうひとつの目的が、米との世界的な覇権争いを優位に運ぶことです。
現在の世界経済は米ドルを通貨基軸としています。
そのため、米は世界経済において何らかの形で影響力を持っていることになります。
中国が少しでも早くデジタル人民元を世界に流通させることができれば、米ドルの力を弱めることができるわけです。
まとめ
日本でやっと進み始めたCBDCに関して、日銀のフォーラムと自民党の政府への提言のニュースをご説明しました。
ただ日銀の動きと自民党の動きは、タイミングや目的意識において異なる感があります。
日銀は動きが遅すぎ、自民党は先走りし過ぎているように映ってしまいます。
とはいうものの、CBDCに関して日本でもやっと動き出したことには変わりないでしょう。
今後の動きに注目しましょう。