EU議会内部からAMLD5の不十分さを指摘する声
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- 2020.04.14.
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仮想通貨に関連する取引などは、以前から犯罪や資金洗浄などの温床になっているとされていたため、統一した規制が実施されました。
特に仮想通貨取引は匿名性が高いため、反社会勢力や犯罪組織だけでなく、テロ組織からもマネーロンダリングに利用されやすいとされていました。
そこで登場したのがAMLと呼ばれるマネーロンダリング防止指令です。
現在EUではAMIL5と称される第5次マネーロンダリング防止指令が実施されていますが、仮想通貨を取り巻く環境の変化は激しく、既に実情にマッチしていないとの声があがっています。
実際にどのような声が挙がっているか、またどのような内容にするべきと主張しているのでしょうか。
詳しい内容についてご説明しましょう。
EUの欧州議会調査局から不十分との指摘
EU議会に所属している欧州議会調査局が、現在実施されているAMLD5は仮想通貨取引の実情にマッチしたものになっておらず、FATF(金融活動作業部会)の規制ガイドラインと比較すると不十分な状態であることを報告書として発表しました。
画像引用:European Parliament
この報告書は「鍵となる発展、規制上の懸念および対応(Google翻訳)」と題されたもので、「ECON委員会から要請された調査(Google翻訳)」としてPolicy Department(内政政策総局)が作成したものと表記されています。
報告書では現在AMLルールとKYC(顧客身元確認)を仮想通貨取引所だけでなく仮想通貨保管のカストディサービスに適応しているものの、FATF(金融活動作業部会)の策定したガイドラインと規制を比較すると、AMLD5は規制適用範囲の点や投資家に対する説明の徹底において不十分であるとの主旨が記述されています。
AMLD5の内容とは
報告書内で指摘されているAMLD5とはどのようなものなのでしょうか。
AMLD5(第5次EUアンチマネーロンダリング対策指令)は、2018年7月9日にEUで施行されており、FATF(金融活動作業部会)が策定したガイドラインに沿った形でEUにおいて策定されたものです。
なおこのガイドラインは仮想通貨サービスの規制だけでなく、提供する事業者を登録制もしくは免許制にすることなどがまとめられています。
すなわちFATFのガイドラインに沿うよう、EUで独自に策定されたのがAMLD5ということになります。
FATFのガイドラインの大きなポイントは、トラベルルールの順守と規制を仮想通貨交換業者だけでなく、仮想通貨取引など仮想通貨に関連したサービスにまで広げて対象とする点です。
トラベルルールとは、仮想通貨を送金する際には送金者と受金者のアドレスに加え、個人情報を取得することを指し、一定額以上の送金情報は規制当局に報告するというものです。
画像引用:FATF
調査局が指摘するAMLD5の規制範囲
議会調査局が現在の規制であるAMLD5に欠けていると指摘しているひとつが、その規制範囲です。
AMLD5を発令した2018年時と比較し、現在では仮想通貨取引所がトークンを発行するIEOが増えているものの、AMLD5の規制適用外となっています。
そのためサブカテゴリーとして、少人数私募やプロ私募、特定投資家私募などによるIEOトークンを含める必要があることを訴えています。
また仮想通貨関連企業の中でも、仮想通貨取引所や中央集権型のプラットフォームなどは現在AMLD5の規制対象外となっていることから、新たに対象として規制する必要性があるとしています。
さらにAMLD5が施行されてからまだ数年しか経過していないものの、その当時から形態が多様化している企業として、マイナー企業やカストディアン、ウォレット企業が挙げられます。
これらの企業に対してもAMLD5の規制の適用が及ぶようにする必要性を訴えています。
マイニング事業に対する規制の厳格化
議会調査局は仮想通貨の小規模なマイニングに関しても、留意しておく必要性があることを訴えています。
特に近年は大規模にマイニング設備を整えず、非常に小規模でマイニングがおこなわれているケースが増えてきています。
そしてマイニングに留意しておくべき理由として、新しく発掘されたトークンには一般的な履歴がなく、もちろん犯罪に利用された履歴もないことを挙げています。
つまりAMLD5の規制の網に引っ掛からないものとなり、容易に法定通貨や他の仮想通貨に交換できてしまうわけです。
これでは犯罪の資金洗浄に幾らでも利用できることになってしまいます。
特に近年は個人所有と同等のハードウェアでも可能な仮想通貨も出現していることから、マイニング事業の実態を詳しく調査・把握し、犯罪の抜け穴を防ぐ必要があると述べています。
仮想通貨が持つリスクの周知徹底
仮想通貨は他の金融商品、特に株取引などと比較するとボラティリティが大きいため、利益を大きくだせることももちろんありますが、その一方でリスクも大きいのが特徴です。
議会調査局は現行のAMLD5では、この仮想通貨の持つリスクが充分に把握されることなく広まっていることに懸念を示しています。
また現在のEU金融法においては、金融機関による仮想通貨保有だけでなく、関連したサービスを一般の人々に提供することを制限できません。
つまり犯罪利用に関連した規制が主であり、仮想通貨の正しい理解や認識が広まっていかないと考えているわけです。
例えば、これまで法定通貨だけを取り扱っていた金融機関が仮想通貨を保有した場合、資産としてバランスシートに記載してしまうと、ボラティリティの大きさによって大きな損失がでてしまう危険性があります。
すなわち、金融機関の崩壊につながってしまうわけです。
またこの金融機関が何らかの仮想通貨事業を展開した場合でも、法定通貨と同じように仮想通貨を捉えていると、同様の結果を招きかねません。
これらのことから、保有する仮想通貨に関しては自己資産から除いておくことを議会調査局は薦めています。
議会調査局が懸念しているのは金融機関についてだけではありません。
一般の投資家や消費者が仮想通貨に投資しようとする際、ボラティリティの大きさから生まれるリスクを十分に理解しているかどうかにも及んでいます。
そのため仮想通貨を取り扱う企業などが顧客に対して、投資の際にはそのリスクを周知させる必要性も説いています。
まとめ
ヨーロッパは仮想通貨に寛容な国が多く、そのため中央銀行発行のCBDCにも積極的に取り組んでいます。
しかし寛容な分、仮想通貨が犯罪に利用される機会も増えてくるはずです。
EU議会内部から現行のAMLD5の不十分さを指摘する声が出てくることは、仮想通貨を否定するために出てきたものではなく、むしろ積極的に推進していくために不可欠な要素であると捉えられているからでしょう。
また仮想通貨に関連した技術革新や新規事業においては進歩が目覚ましく、短期間で規制が実情にマッチしないものになってしまいます。
規制を見直す動きが組織内部から起こっていることも、EUの仮想通貨に対する積極性を証明していることになるのではないでしょうか。
これは決してEUの仮想通貨に対する取り組み姿勢を過信しているわけではなく、議会調査局が指摘している内容を把握すれば十分理解できるはずです。
このような動きが進むと、EUはいずれ仮想通貨先進国となっていくのかもしれません。
また仮想通貨だけでなく、CBDCにおいても同様でしょう。
近い将来、仮想通貨やCBDCに関しては発展性だけでなく、規制の面においてもEUを見習わなければならないようになっていくのかもしれません。
どこかの国の頭が固く、頑固で、古い概念に凝り固まった人々に、是非とも見習ってほしいものです。