IMFが説明するステーブルコインのメリットと危険性
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- 2019.09.24.
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画像引用:IMF Blog
世界の189ヵ国が加盟し、加盟国の為替政策の監視や収支悪化国への融資などをおこなうIMFが同機関のブログにおいて、ステーブルコインに関する記事を掲載しました。
ステーブルコインとは、法定通貨などにペッグして、その価値を担保してある仮想通貨のことです。
最近ではフェイスブックの仮想通貨リブラや仮想通貨取引所バイナンスのビーナスなどがステーブルコインプロジェクトとして話題になっており、世界の金融取引を大きく変えてしまう可能性が示唆されています。
ブログはIMFがステーブルコインに対してどういう意見や考えを持っているかのかが分かる内容になっています。
ブログの内容についてとIMFの仮想通貨に対する考えの変遷なども含めてご紹介しましょう。
IMFがブログでステーブルコインに言及
国際通貨基金IMFが2019年9月19日にブログを更新し、タイトル名「Digital Currencies: The Rise of Stablecoins」(デジタル通貨:ステーブルコインの台頭)という記事を公開しました。
この記事ではステーブルコインのメリットと危険性が非常に分かりやすく記述されているとともに、IMFのステーブルコインに対する危機感が表れています。
なお、このブログはTobias Adrian氏とTommaso Mancini-Griffoli氏による記述とのことです。
Tobias Adrian氏はIMFにおいて金融資本市場部のファイナンシャルカウンセラーであり、ディレクターの役職に就き、金融セクターの監視や金融政策、債務管理などをおこなっている人物です。
もう一人の執筆者Tommaso Mancini-Griffoli氏はIMFの金融資本市場部の副課長です。
金融政策に精通し、各国の金融当局への助言だけでなく、新たな金融政策やその効果、為替レート、金融政策の枠組みに関した問題を担当しています。
画像引用:IMF Blog Tommaso-Mancini-Griffoli
ステーブルコインのメリット
IMFはステーブルコインのメリットについて以下のように述べています。
ステーブルコインの強みは、支払い手段としての魅力です。低コスト、グローバルなリーチ、速度はすべて、大きな潜在的なメリットです。
(中略)
最も強い魅力は、ソーシャルメディアを使用するのと同じくらい簡単に取引を行うことを約束するネットワークから来ています。支払いは単なる送金行為以上のものです。彼らは人々をつなぐ根本的に社会的な経験です。ステーブルコインは、デジタルライフへのより良い統合の可能性を提供し、ユーザー中心の設計で成功する企業によって設計されています。巨大なグローバルユーザーベースを持つ大規模なテクノロジー企業は、新しい決済サービスが迅速に広がるネットワークを提供します。
引用:IMF Blog 一部をGoogle翻訳
この表現をまとめるとIMFが考えるステーブルコインの魅力とは、低コストで、しかも世界中に、そして素早く送金できるということだけでなく、大企業がまるでSNSを利用するかのように簡単に取引できるように作り上げており、そのネットワークも急速に広がっていくと述べているわけです。
ステーブルコインの危険性
ではIMFが考えるステーブルコインが持つ危険性とはどのようなものなのでしょうか。
ブログでは6つの危険性を指摘しています。
銀行が金融仲介者としての地位を喪失
ステーブルコインが一般に広がっていくと、本来は銀行に預けられるはずであった預金がステーブルコインに流れてしまう可能性が高くなってしまいます。
すなわち、銀行がこれまで金融仲介者として成立していた立場を失ってしまう可能性があるということを訴えています。
金融の分野での新たな独占
巨大なテック系企業は取引顧客のデータを独占することで、競合他社を抑えて収益化し、巨大化してきました。
金融業界においても同様のことが生じる危険性があることを指摘しており、それを防ぐためにもデータ保護やコントロール、データの所有権などに新たな基準を設ける必要があると提言しています。
弱い法定通貨が脅威にさらされる
高いインフレ率や経済的な信用性が低い国の法定通貨はステーブルコインと比較すると弱く、通貨としての価値を失ってしまう可能性があります。
現在でもこのような国では自国通貨でなく米ドルを調達しようとする傾向、すなわちドル化があり、ステーブルコインはこの傾向がもっと強く起きやすいと指摘しています。
それゆえにこれらの国では、ステーブルコインの導入や流通を制限する可能性も考えられるとしています。
違法行為促進の可能性
仮想通貨はマネーロンダリングやテロ支援資金として活用されやすく、ステーブルコインも同様にその可能性を広げるものであることを述べています。
またこれらを阻止するためにも金融監督者、すなわち規制当局も新しいテクノロジーに対応していかなければならないとしています。
通貨発行益減少の可能性
法定通貨の場合、中央銀行が発行する通貨の額面と製造原価の差がシニョリッジ(通貨発行益)となりますが、ステーブルコインが大量に出回ってしまうと、シニョリッジが大きく減少してしまう可能性があることを警告しています。
同時に利子が付くことがないステーブルコインが、利子の付く法定通貨から利益を吸い上げる可能性についても警告しています。
消費者を保護する必要性
銀行預金とその預金者や利用者は政策によってしっかりと保護されていますが、ステーブルコインの場合でも同様の保護が必要であることを訴えています。
そのためにもステーブルコインがどのような金融商品であるのかの位置付けを、法的にも明確にしておく必要があると述べています。
IMFの仮想通貨に対する意見の変遷
IMFのブログで記述されている、ステーブルコインに対するメリットや危険性について説明しました。
IMFのブログを見ている限り、ステーブルコインに対する過剰な反対意見は見られません。
どちらかというと比較的フラットで、ステーブルコインに対応していくためにはどうするべきなのかが説明されており、世界の金融規制担当者が参考にするべき内容だといえるでしょう。
ではステーブルコインではなく、仮想通貨全体に対してIMFはどのようなスタンスや意見を持っているのでしょうか。
過去のIMFによる発表などを見てみましょう。
■2017年10月
イングランド銀行が主催するカンファレンスで、当時IMFの専務理事だったクリスティーヌ・ラガルド氏が仮想通貨について、既存の通貨に取って代わるものになっていないことや、
中央銀行機能を代替えするほどのものではないが、目を背けるべきではないことを提言しています。
■2018年5月
仮想通貨の世界における利用率はまだ低く、金融商品としても不十分であること。
投資家から株や証券などのような信頼を得ていないのがその理由であり、仮想通貨は世界に悪影響を及ぼすようなものではないとの見解を示しました。
■2018年11月
11月12日から16日の日程で、シンガポールにおいて開催された「FinTech Festival」の中で、当時IMF専務理事だったクリスティーヌ・ラガルド氏が、仮想通貨は変化の速度が著しい現代の消費者と経済ニーズに適していること、そして中央銀行も変化に適応していくべきであると提言しました。
■2019年7月
仮想通貨について、利用拡大の速度を過小評価してはならず、金融政策に影響する危険性についても指摘し、早急な対応策の構築を促しています。
またフェイスブックのステーブルコインであるリブラについても、一気に利用が広がる可能性を指摘しています。
IMFの発言から見た姿勢
全てではないものの、IMFの仮想通貨に対する意見の変遷を紹介しました。
これを見ると分かるように、IMFは仮想通貨の危険性に対して警鐘を鳴らしてはいますが、決して軽んじているわけではなく、むしろ変化に対応していくべきであると表明しています。
これは2011年7月5日から2019年9月12日まで専務理事であったクリスティーヌ・ラガルド氏の仮想通貨を歓迎する考え方が影響していることは間違いないでしょう。
まとめ
IMFのブログに掲載された、ステーブルコインについてのメリットと危険性についてご紹介しました。
IMFはステーブルコインの危険性を十分理解したうえで、コントロールできる方法を模索すべきであると訴えているようです。
IMFが訴えているようになるとするならば、フェイスブックのリブラが大きな反発を招いている現状が、今後どのように解消されていき、いつ発行にこぎつけることができるのでしょう。
当分の間、ニュースから目が離せません。