仮想通貨の取り扱いに右往左往するインド
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- 2019.08.14.
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1947年にイギリスから独立し、人口では中国に次いで世界第二位の13億人を抱えるインド。
このインドで今、仮想通貨をどうするべきかで方針が定まらない状態が続いています。
インドは経済的に貧しい人が多い国でもありますが、人口の多さから考えると、仮想通貨に対する影響力は非常に大きいはずです。
インドにおける仮想通貨事情についてご説明しましょう。
インド政府の仮想通貨諮問委員会が懸念を報告
現在インドでは、多くの人々が海外にある仮想通貨取引所を利用してトレーディングをおこなっており、そのことに対してインド政府の仮想通貨諮問委員会が懸念をまとめた報告書を発表しました。
報告書のタイトルは「Report of the Committee to propose specific actions to be taken in relation to Virtual Currencies」となっており、翻訳すると「仮想通貨に関連してとるべき特定の行動を提案する委員会の報告」となります。
画像引用:財務省経済局 ニューデリー インド
なお、仮想通貨諮問委員会は仮想通貨について、民間の利用や取引は全面的に禁止し、政府が発行するものだけを許可すべきとの発表もおこなっています。
民間利用を全面的に禁止すべき理由
仮想通貨諮問委員会が仮想通貨の民間利用を全面的に禁止すべき理由として以下の3つを主張しています。
1.仮想通貨そのものがマネーロンダリングやテロ支援資金に使われやすく、それらに対する取り締まりを妨害することになってしまうこと。
2.仮想通貨特有のボラティリティの大きさだけでなく、マイニング時に必要となる大規模な電力消費などが金融システムを揺るがしてしまうこと。
3.仮想通貨のICOなどに詐欺が横行していること。
国が発行するものは禁止しない理由
民間の仮想通貨利用は禁止するものの、国が発行する仮想通貨を禁止しない理由として、仮想通貨は金融システムの効率化と改善につながるが、法定通貨と同等の本質を持ち合わせていないことを挙げています。
これはつまり仮想通貨は国外送金など、非常に有利な面を求めながらも、法定通貨と同じ価値はなく、国としてもその価値を認めないと主張しているのと同じことになります。
ブロックチェーン技術の有用性は理解
上記のような主張を述べるだけでなく、ブロックチェーン技術には多くの有用性があることははっきりと認めています。
仮想通貨に対する姿勢が統一されない現状
インドでは仮想通貨を全面的に禁止すべきなのか、それとも認めるべきなのかがその時々や人によって異なっているように感じられます。
またそのどちらかに向かっているのかさえも、発表などから読み取ることができません。
例えばインド中央銀行RBIによる金融機関で仮想通貨の取り扱いを禁止する「仮想通貨関連業務禁止令」だけでなく、仮想通貨を全面禁止し、この禁を破った場合には最大10年の禁固刑が科される法案がインド政府に提出されたなどの報道がされています。
しかも厄介なことに、インド政府とインド中央銀行RBIとは仮想通貨規制について協議もされていない状況のようです。
このように仮想通貨を全面禁止する動きがあるかと思えば、その一方で現役の財務相副大臣がインド連邦議会の場で、今のインドでは仮想通貨を取り締まるための法律は存在しないと発言し、現時点では仮想通貨取引を制限するような法が存在しないことを認めているケースもあります。
これらのことを考え合わせると、現在は政府や各省庁内で討議されている最中ではないかと推察されますが、政府以外の組織では仮想通貨を禁止したい意向にあるようです。
インドが仮想通貨を禁止するのは130億ドルの損失
インドで仮想通貨取引が全面禁止になるのかどうかはまだ不透明ですが、仮に全面禁止になると、その損失はおよそ130億ドルにも上るという試算結果が報道されています。
試算したのは仮想通貨やブロックチェーンなどに関するリサーチを専門に行っている米Crebaco Global社です。
画像引用:Crebaco Global
Crebaco Global社CEOであるSidharth Sogani氏によると、インドが仮想通貨を全面的に禁止したと仮定すると、国として129億ドル(約1兆3600億円)の損失につながると試算できるとのことです。
Crebaco Global社の試算方法
ではCrebaco Global社はどのようにこの損失額を算出したのでしょうか。
算出方法のひとつは、インドにある企業を複数調査し、仮想通貨が解禁された場合の売り上げや利益を計算するものです。
そこに、インドの仮想通貨取引所の2018年の出来高を加味します。
なお仮想通貨取引所については、インドが仮想通貨を全面禁止するとの情報が出た時点でインドから他国に移転を考えている取引所の出来高も加味します。
また他国の仮想通貨取引所でインドの人々が取引している出来高も考慮してあることのことです。
例えば世界で最も取引量の多いバイナンスでは、2018年を例にとると、総出来高のおよそ8%がインドからの取引とのことです。
つまり想定で130億ドルと試算したのではなく、現実味のあるデータを積み上げて算出した結果が130億ドルだったということになります。
仮想通貨全面禁止で最も困る人々とは
インドでもし仮想通貨取引が全面的に禁止されたとすると、現実的に最も困るのはどのような人々なのでしょうか。
それはインドの現実を調べるとすぐに分かります。
まずGDPを見てみると、2013年は1兆8706億ドルで、世界10位でした。
しかしインドは人口が多いため、総額での数字は意味がありません。
そこで、一人当たりのGDPに計算してみると1,504ドルとなってしまいます。
この数字は世界水準でみると20%にも達しておらず、スリランカの半分ほどでしかありません。
1991年の経済改革によってインドの経済は急速に成長しているため、このような状態がいつまでも続くとは思えませんが、現在は貧困にあえぐ人が多く存在しています。
インドの貧困層はおよそ3億人いるといわれており、彼らは一日65ルピー(日本円で約96円)以下で生活しています。
そのため、彼らの多くは少しでも収入を得るために出稼ぎに出ているようです。
しかし貧困層の人々は、銀行口座を持つことができません。
出稼ぎに出た人が仕送りするには、銀行を使うことができないため、必然的に仮想通貨に頼るケースが多くなるでしょう。
つまり、インドで仮想通貨が全面的に禁止されると、もっとも困る人々は仮想通貨取引をしているトレーダーではなく、貧困層の人々だといえるのです。
想定されるインドの仮想通貨の今後
Crebaco Global社CEOのSidharth Sogani氏は、現実問題としてインドが仮想通貨を全面的に禁止することは難しいのではないかと考えているようです。
それはインドの人口が13億人と膨大であり、全ての人々を監視する術がないというのが根拠になっています。
そのため、ある程度の規制はしつつも全面的な禁止にはならず、取引や利用を認めるのではないかと推測しています。
まとめ
インドの現在の仮想通貨事情についてご説明しました。
インドの仮想通貨に対する姿勢が統一されないのは、おそらく最終的な判断ができておらず、その途中にあるからでしょう。
しかしもし仮想通貨が全面的に禁止され、違反した場合の禁固刑が実際に施行されるようになったとしたら、仮想通貨市場にとっては大きな打撃となります。
前述したように、バイナンスだけでも取引高のうち8%を占めるインドの取引が無くなることは大きなネガティブ要素であり、仮想通貨の価格にも影響してくることが考えられます。
インドが仮想通貨に対する規制をどうするのか、仮想通貨FXに取り組むのであれば、注意しておく必要があるでしょう。