ドイツが2020年から仮想通貨先進国に変貌する
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- 2019.12.10.
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仮想通貨は通貨という名前が付けられているにもかかわらず、どの国でも基本的に投資対象と位置付けているのがほとんどであり、銀行で取り扱われることはなく、仮想通貨取引所だけで扱われているのが現実です。
しかし2020年からはドイツの全ての銀行で仮想通貨の売買だけでなく、保管サービスを実施できるよう法案が提出されました。
これによりドイツは、世界でも類のない仮想通貨先進国へ変貌を遂げることになります。
このニュースについての詳細をご説明するとともに、この法案に対する意見、そしてこのような法案が提出された背景などもご紹介しましょう。
ドイツ全銀行で仮想通貨が扱える法案提出
ドイツの上院下院の両方で第4次マネーロンダリング防止令の分離条項が採択され、国内の銀行において、仮想通貨の売買に加え、保管業務が実施できるようになったと、ドイツの金融紙であるHandelsblattが報じました。
これにより2020年1月1日からドイツ国内の全ての銀行で、仮想通貨の取り扱いが開始されるとみられています。
画像引用:Handelsblatt
第4次マネーロンダリング防止令とは
第4次マネーロンダリング防止令は2017年6月から欧州経済領域にある全ての企業や団体などを対象にして施行されており、マネーロンダリング対策やテロ資金供与対策、脱税防止対策の体制を強化することを目的としたものです。
防止令の中で、仮想通貨の保管を目的とした売買を金融機関がおこなうことは禁じられており、金融機関以外の別企業でしか扱えないようにすることが定められています。
今回採択された法案とは
今回ドイツの上院と下院の両方で採択されたのは、上記の第4次マネーロンダリング防止令の中で、金融機関が保管目的で仮想通貨を売買できない内容部分を削除したものです。
これによって金融機関でも仮想通貨の売買だけでなく、保管業務もおこなえるようになったというわけです。
この法案によるドイツの位置付け
今回の法案採択により、ドイツでは仮想通貨を全ての銀行で売買でき、保管することもできるようになります。
これまで銀行で仮想通貨を売買できたのはベネズエラぐらいでしょう。
ただしベネズエラは自国で独自の仮想通貨、すなわち官製仮想通貨であるPetro(ペトロ)を発行しており、大統領が流通を促進するために最大手銀行に窓口を設けさせています。
つまり、ベネズエラの銀行でも扱っているのは自国の官製仮想通貨だけというのが現状です。
2020年からドイツの全ての銀行で仮想通貨を取り扱うようになれば、まさに世界で初めてであり、ドイツが仮想通貨先進国になるということです
このことに関して、コンサルティングを専門におこなっているDLCの責任者であるSven Hildebrandt氏は、以下のようにコメントしていると、Handelsblatt紙は報道しています。
「ドイツは暗号の天国になりつつあります。 ドイツの立法者は、暗号の真実の規制において先駆的な役割を果たしています。」
画像引用:Dr. Sven Hildebrandt Twitter
新法は暗号資産を法的にも定義
ドイツのこの新法には、暗号資産を法的に定義した内容も含まれています。
それによると、暗号資産とはどこの中央銀行や公的機関からも発行されていないデジタル化した価値表示のもので、決済や交換、投資のための手段となり得るものとされています。
この定義はドイツの法で電子マネーを定義している考え方と異なるだけでなく、証券やユーティリティトークンとの区別なども言及されていないため、非常に広義の定義となっています。
ドイツ銀行協会は歓迎するも一部には批判も
この新法を歓迎しているのはドイツ銀行協会です。
その理由として挙げているのが資産保管とリスク管理の経験が豊富であるため、投資家の保護ができること。
そして金融機関が監督当局の規制下にあることの二つです。
そのために、第4次マネーロンダリング防止令の根幹にあるマネーロンダリング対策やテロ資金供与対策を効果的に実施できるとしています。
ただし、銀行が仮想通貨の取り扱いをすることに批判の声もあります。
Baden-Wuerttemberg州消費者センターの金融専門家であるNiels Nauhauser氏は、銀行が仮想通貨販売をおこない、手数料をもらって保管するようになれば、その銀行の顧客に資産が全損するリスクを負わせてしまうことになりかねないと主張しています。
ドイツ銀行協会の本音とは
ドイツ銀行協会は上記のように今回の新法を歓迎し、積極的に推進していくつもりのようです。
しかしドイツの銀行の実情を知ると、歓迎している裏側には色々な本音が見え隠れしているようです。
苦境にあるドイツの銀行
欧州の銀行は現在マイナス金利に加え、景気の減速によって非常に苦境に立たされています。
そのためコスト削減を実施しなくてはならず、人員削減に踏み切っています。
欧州の銀行の中でも人員削減数のトップにあるのがドイツの銀行なのです。
2019年初めからの具体的な人員削減数を挙げると、世界における銀行の人員削減数はおよそ58,200人とされています。
その内のおよそ90%にあたる52,380人が欧州の銀行での人員削減です。
画像引用:bloomberg
さらに、欧州の中でも人員削減が最も顕著なのがドイツの銀行です。
特にドイツ銀行は2022年までに18,000人を削減し、コスト削減につないでいきたい考えです。
画像引用:bloomberg
これだけの苦境にあるドイツの銀行が、利益を拡大する手段として仮想通貨取り扱いができるようになるのは、大歓迎ではないでしょうか。
また仮想通貨取り扱いができるようになれば、投資家やトレーダーはドイツのファンドを活用して仮想通貨投資ができるため、海外に資金を保管することなく、ドイツの銀行に保管してもらえることが大きなメリットとなるはずです。
デジタルユーロへの布石
そしてドイツ銀行協会のもう一つの本音として、デジタルユーロがあります。
ドイツ銀行協会は2019年10月末に、ブロックチェーンを活用することでスマートコントラクト能力が備わった、デジタルユーロの発行が必要だとした内容の論文を発表しています。
つまりドイツはEU共通で使えるデジタルユーロの発行を熱望しているわけです。
またデジタルユーロを熱望しているのはドイツだけでなく、フランスも同様の考えのようです。
ドイツとフランスの両国はフェイスブックの仮想通貨リブラに強く反発していましたが、その有用性や経済効果などには注目していたのでしょう。
デジタルユーロを発行すれば、同じような効果が期待できると考えたはずです。
しかしいきなりデジタルユーロを発行させるにはハードルは高過ぎます。
そこでまず仮想通貨を銀行が取り扱う、つまり仮想通貨と法定通貨を自由に交換できるようにすれば、デジタルユーロへのハードルは低くすることができます。
銀行での仮想通貨取り扱い新法は、デジタルユーロへの布石にもなっているのです。
まとめ
ドイツにおいて、全ての銀行で仮想通貨の売買と保管ができる法案を提出したニュースについてご説明しました。
銀行で仮想通貨を取り扱うことができるようになると、どのような効果が生まれてくるのかは、未知数です。
またどんな問題が噴出してくるのかも予想ができません。
加えて今回の件はヨーロッパだけでなく、デジタル通貨発行を視野に入れている世界の各国が注目しているはずです。
その先例として、万が一問題が起きた場合でも迅速に対応し、少しでも円滑な仮想通貨取引ができるようになって欲しいものです。
そして仮想通貨がデジタル通貨の単なる布石としていずれ切り捨てられるのではなく、さらなる発展につながっていくよう配慮してもらいたいものです。