英調査機関が世界の仮想通貨規制を格付け
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- 2019.05.13.
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2019年3月27日、イギリス・ロンドンを拠点とする仮想通貨・ブロックチェーンの調査企業コインファーム(Coinfirm)社が、BinanceやPoloniexなどを含んだ世界における主要な216の仮想通貨取引所を対象に、規制面のリスクアセスメント(リスクの特定・分析および評価)を発表しました。
今回評価の対象となった仮想通貨取引所の数は、国際的な仮想通貨の市場活動の90%以上を占めています。
その中には、具体的な取引所名こそ明らかになっていないものの、日本の取引所も含まれているようです。
各国の評価に加え、世界的に見て日本がどう評価されているのかも分かることから、今後仮想通貨取引を行うにあたって信用できる取引所・国の情報が2019年時点で網羅された調査結果と言ってよいでしょう。
今回はそんなコインファーム社の調査から、仮想通貨規制の動き・各国のリスク規制の状況についてご紹介します。
格付けはどんな項目で評価したのか
まず、コインファーム社が今回格付けした根拠として、具体的にどのような項目があったのかを見ていきましょう。
具体的には、以下の7つの項目について、各国の仮想通貨取引所を審査しています。
- 規制当局にライセンス登録しているか
- KYC(Know Your Customer)やデューディリジェンス(Due diligence)などの顧客管理ができているか
- マネーロンダリング対策は十分か
- 国連・アメリカなどの経済制裁に対応しているか
- Peps(政府等において重要な地位を占める人)など顧客適格審査(重要人物のマーク)ができているか
- 運営している司法管轄区域のリスクは高いか
- メディアから悪い報道をされたことがあるか
これらの項目について、特に重要視されていたと考えられるのが1.と2.です。
以下に、詳しく見ていきましょう。
規制当局からのライセンス・認定の有無
出典元:Coinfirm/assessment results
コインファーム社の調査によると、調査対象となった216の取引所の中で、金融規制当局(日本で言う金融庁など)からライセンスなどを取得して運営している取引所は、全体の14%という結果が出ています。
金融当局として認定されている取引所としては、アメリカのFinCEN(金融犯罪捜査網)や、香港のHKMA(香港金融管理局)などが挙げられます。
金融庁を例に取ると、審査までに時間がかかるケースや審査に通らないケースも少なからず存在するため、新規参入者にとっての障壁は高いものと考えられます。
しかし、当局の承認が得られることは取引所としての信用を大きく高めることにつながりますから、今後も各取引所は金融庁の認可を得られるよう努力するはずです。
よって、今後同様の調査がなされた際は、世界各国のみならず日本でも、ライセンス取得率は増えていくでしょう。
そうなれば、仮想通貨自体の信用性も高まっていくのではないでしょうか。
KYC体制完備の割合
KYCという言葉について、あまり聞き慣れないという人も多いと思いますが、これは英語でKnow Your Customerの略語です。
仮想通貨取引所において、口座開設時に求められる「顧客確認のための本人確認書類・手続き」の総称です。
仮想通貨取引所がKYCを実施する目的は、主にマネーロンダリングなどの犯罪を抑止するという狙いがあります。
日本を例に取ると、暴力団のような反社会的勢力に対する規制が大幅に強化されたため、実質的に銀行・証券会社の口座を作るのは不可能に近いレベルです。
しかし、仮想通貨はその構造上「管理者不在の取引」を行うため、金融機関が銀行口座の動きを見て資金の流れを把握することが難しいという現状があります。
そんな状況で反社会的勢力に仮想通貨が行き渡るのを防ぐためには、口座開設時にKYCが義務付けられていることが望ましいと言えます。
ただ、世界の仮想通貨取引所を見てみると、2019年時点では必ずしも十分なKYCの整備がなされていないことが、コインファームの調査で明らかになっています。
出典元:Coinfirm/assessment results
コインファームの調査によると、調査対象のうち69%にあたる149の取引所において、十分な顧客管理体制やKYCの整備が行われていないことが分かりました。
また、KYCなど顧客管理体制が整っている中で法定通貨取引を提供している取引所は、全体のおよそ23%という結果も出ています。
世界全体で見たときに、十分な顧客管理体制を兼ね備えている仮想通貨取引所は、およそ1/4という計算になります。
仮想通貨が誕生してから十数年しか経過していないことを考えると、多い数字と言えなくもないですが、どの国でも安心して仮想通貨取引を行うためには、各取引所の今後の対応が望まれます。
世界各国における取引所の事情について
今回の調査によって、国別で見た世界中の仮想通貨取引所におけるリスクが、ある程度示されたものと見てよいでしょう。
出典元:COINTEKEGRAPH
コインファームの調査結果が反映された上の地図では、国別に評価されたリスクが「低・中・高」の3つに分別され、色分けされています。
主な国名は以下の通りです。
<低リスク>
- 日本
- オーストラリア
- ノルウェー
- スウェーデン
- フィンランド
- ドイツ
- スイス
<中リスク>
- アメリカ合衆国
- カナダ
- イギリス
- ブラジル
- 中国
- インド
- サウジアラビア
<高リスク>
- ロシア
- ベラルーシ
- ウクライナ
- イラン
- アフリカ諸国
実際に地図を見てみると、いわゆる先進国と呼ばれる国であっても、仮想通貨についてはそれほどリスク管理ができていないとみなされているようです。
今後、仮想通貨が広く普及する中で、リスクの順位にも変動が起こる可能性は否定できないでしょう。
日本の評価はどうなっているのか
出典元:COINTEKEGRAPH
コインファームによる調査結果では、日本の取引所は概ね高評価を受けており、結論から言えば総じて低リスクと判断されています。
ここで、格付けの根拠となった7つの基準をもう一度見てみましょう。
- 規制当局にライセンス登録しているか
- KYC(Know Your Customer)やデューディリジェンス(Due diligence)などの顧客管理ができているか
- マネーロンダリング対策は十分か
- 国連・アメリカなどの経済制裁に対応しているか
- Peps(政府等において重要な地位を占める人)など顧客適格審査(重要人物のマーク)ができているか
- 運営している司法管轄区域のリスクは高いか
- メディアから悪い報道をされたことがあるか
調査対象となった日本の取引所は、上記における1、2、5、6の項目で、全ての取引所が低リスクと判断されています。
また、リスクが高いと判断された項目は、全体で42あるうちの5つにとどまり、3で1つ、4で2つ、7で2つとかなり少ないことが分かります。
日本国内の状況を見ると、改正資金決済法は2016年5月25日に成立して2017年4月1日に施行されており、他国と比較して早い段階での法整備が低リスクという評価につながったものと推察されます。
おわりに
今回行われた格付けによって、どの国が仮想通貨取引を重要視していて、どこまで環境を整備しているのかがある程度可視化されました。
日本ではどちらかというとネガティブなイメージからスタートしたと思われている仮想通貨ですが、実際には本格的な運用を想定し、取引所や国が動いていたという結果が浮き彫りになったと言えるかもしれません。
相対的に見て、日本の金融庁を主体とした規制が高評価につながっていることを考えると、仮想通貨業界が世界基準で先行する可能性もありそうです。
機関投資家など大口投資家が参入すれば、それが追い風になり、今後日本の仮想通貨取引はより活発化するのではないでしょうか。