制裁混乱意図でトルネードキャッシュからETHを著名人に送金か
- 仮想通貨関連
- 2022.08.11.
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- 制裁混乱意図でトルネードキャッシュからETHを著名人に送金か
仮想通貨流出事件は相変わらず後を絶ちませんが、流出させた犯人に頻繁に利用されてきたのが、イーサリアムチェーン上で動作させて取引そのものを匿名化させることができるミキシングサービス、Tornado Cash(トルネードキャッシュ)です。
OFAC(米国財務省外国資産管理局)はこのトルネードキャッシュを含め、関連するETH(イーサリアム)アドレスやUSDC(USDコイン)アドレスを2022年8月8日、制裁対象として指定しました。
その翌日の8月9日、トルネードキャッシュのウォレットから米国の著名人らに対して0.1ETHが送金されました。
制裁対象のウォレットからの送金を受け取ること自体が制裁の対象となり得ることから、一方的に送金された著名人らが問題となってしまうことも考えられます。
送金した人物の意図とはどのようなものなのでしょうか。
このニュースについて、詳しくご説明しましょう。
OFACがトルネードキャッシュを制裁対象に
2022年8月8日、OFAC(米国財務省外国資産管理局)が暗号資産のミキシングサービスを提供しているTornado Cash(トルネードキャッシュ)および関連した38のETHアドレス、そしてUSDCアドレス6つを制裁の対象者リストに加えたことを発表しました。
画像引用:treasury.gov
この制裁の発動により、米国内もしくは米国人が保有しているトルネードキャッシュにある資産の全ては凍結されることになりました。
加えて、資産凍結を受けた人物が株式の半分以上を所有している企業も制裁を受けることになります。
またこの人物が所有する財産における取引も、米国財務省外国資産管理局の許可を受けなければならなくなりました。
つまりトルネードキャッシュに資産を持っている個人と個人が運営に関わる企業について、活動できなくしたということになります。
トルネードキャッシュとはどんなものなのか
トルネードキャッシュとは仮想通貨のミキシングサービスを提供しているイーサリアム上にあるプラットフォームのことです。
通常、仮想通貨を取引きすると、取引記録がブロックチェーン上に記録され、これまでの取引の全てを閲覧することができますが、トルネードキャッシュのミキシングサービスを使うと匿名化され、ブロックチェーン上に記録されることがありません。
また保有者のアイデンティティも隠すことができます。
そのため仮想通貨をハッキングした犯人が、資金洗浄に利用していることが知られており、これによって捜査が困難になっていると指摘されています。
例えば2022年6月にHarmonyブリッジからハッキングされたおよそ130億円、8月にNomadブリッジからハッキングされたうちのおよそ10億円などは、資金洗浄のためにトルネードキャッシュを利用していることが明らかになっています。
制裁翌日に匿名で著名人らに対してETHが送金
米国財務省外国資産管理局がトルネードキャッシュに対して制裁を発動したことが発表された翌日の2022年8月9日、米国の複数の著名人に対してトルネードキャッシュから1人あたり0.1ETHが送金されました。
画像引用:etherscan.io
0.1ETHが送金されたのは、米国の仮想通貨取引所Coinbase(コインベース)のCEOであるBrian Armstrong(ブライアン・アームストロング)氏や有名なテレビ司会者Jimmy Fallon(ジミー・ファロン)氏、有名なコメディアンであるDave Chappelle氏、メタ社のCEOであるMark Zuckerberg氏の妹のRandi Zuckerberg氏など米国では著名な人々ばかりでした。
著名人への匿名送金の意味とは
上記の著名人に対する0.1ETHの送金はトルネードキャッシュからおこなわれているため、誰が送金したのか特定することができません。
では何のための送金だったのでしょうか。
米国財務省外国資産管理局の制裁により、トルネードキャッシュとの取引は違法になります。
もし故意に取引をしたとすれば5万ドル~1000万ドルの罰金に加え、10年~30年の禁固刑を受けることになります。
しかし今回の匿名での送金を受け取ることになった著名人らは、故意に受け取ったわけではなく、さらにトルネードキャッシュからの送金はオンチェーンでの取引であることから、拒否することはできません。
彼らはトルネードキャッシュを利用したわけでもなく、ある日突然トルネードキャッシュから送金されただけであり、制裁に抵触しているとはいえないものの、違反している可能性も生じてきます。
おそらく匿名送金の犯人は制裁を混乱させる意図でふざけて送金したか、もしくは制裁に内包している問題の大きさを認識させるためにわざと著名人宛に送金したのかのどちらかだと考えられます。
制裁措置に対する疑問の声
米国財務省外国資産管理局は、ハッキングした犯人がトルネードキャッシュを使ってマネーロンダリングしていたことから制裁措置に踏み切ったわけですが、この制裁措置に対する疑問の声も挙がっています。
仮想通貨やブロックチェーン関連のシンクタンクであるCoin Centerは、この制裁に対して「プライバシー ツールに対する米国財務省の制裁により、すべてのアメリカ人に抜本的な制限が課せられます(Google翻訳)」と題した文書を2022年8月8日に発表しています。
画像引用:Coin Center
この文書の中で、Coin Centerは以下の内容を記述しています。
ブロックチェーン取引の性質上、Tornado.cash アドレスを通じて送金されたアメリカ人は取引を拒否することさえできず、その時点で技術的に OFAC 規則に違反している可能性があります。
引用:Coin Center Google翻訳
これはトルネードキャッシュから送金された複数の著名人のケースが該当し、Coin Centerは制裁発動時点でこのことに注意を促していたことになります。
またこの制裁の対象を犯罪に関連した人ではなく、トルネードキャッシュにしたことで、犯罪に関係のない人々までがサービスを利用できなくなるため、この制裁は個人に対するものではなく、テクノロジー全体の禁止措置にあたることも問題として挙げています。
これはテクノロジーの禁止であり、個人に対する制裁ではありません。
引用:Coin Center Google翻訳
実際にこの制裁によって犯罪に全く関係のない、正当な取引をしていた人も資産が引き出せなくなっています。
USDC(USDコイン)を運営している米国サークル社は、今回の制裁措置でトルネードキャッシュのウォレットを凍結しましたが、このウォレットには正当な取引でトルネードキャッシュにUSDCを保管していたユーザーも多く含まれていました。
彼らは自分の資産であるUSDCを引き出すことができなくなってしまったわけです。
まとめ
ハッキング犯が、流出させた仮想通貨をマネーロンダリングする目的で使っていたミキシングサービス、トルネードキャッシュや関連するアドレスなどを制裁対象としたことに関してご説明しました。
ミキシングサービスそのものは意味のあることであり、個人情報を隠しておきたい場合やオンチェーン上の活動を知られたくない場合などには有効な手段だといえます。
その一方で、過去の取引情報が全て閲覧できるというのもブロックチェーンを用いた仮想通貨の大きな特徴でしょう。
この相反する事柄を満足させることは難しいのかもしれませんが、今回の制裁措置はサービスそのものを制限することになっており、抜本的な解決策とはいえないでしょう。
理想的には流出してしまうことがない技術の開発が必須なのでしょうが、果たしてそんな日はやってくるのでしょうか。