米ドルのCBDC構想をホワイトペーパーで提案
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- 2020.06.03.
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新型コロナウイルスの感染が世界中に大きく広がったことが契機となり、発生源とされる中国に対する風当たりは強くなりました。
中でも感染者数や死亡者数が大きな米国は経済面や雇用面で苦戦を強いられることになり、トランプ大統領が選挙を控えていることも背景にあるため、中国の新型コロナウイルス初期対応などを責める動きにつながっています。
これに対する中国の反応は、これまでにない歯に衣を着せないものとなっているため、米中の対立は激しいものになりつつあります。
その中国はCBDCであるデジタル人民元の開発に着手しており、既にテストも実施していますが、デジタル人民元には世界の基軸通貨である米ドルの地位を切り崩す狙いがあるといわれています。
一方、米ではこれまでCBDCに否定的な意見が多く、研究されている様子はうかがえるものの、実際に開発・発行までを視野に入れた動きは認められず、CBDCに関しては中国に後れを取っていました。
しかしここにきて初めて、米ドルのCBDCのあるべき姿となる構想がまとめられ、ホワイトペーパーとして発表されました。
このホワイトペーパーはあくまでも有識者などによる構想であるため、実際にはこの通りに開発が進むかどうか不明ですが、構想をまとめたホワイトペーパーが発表されたことには大きな意義があります。
このニュースについて、詳しくご説明しましょう。
デジタルドルプロジェクトがCBDC構想を発表
これまで研究などは実施されていたものの、総合的なプロジェクトとして構想がまとめられたことのない米ドルのCBDCについて、コンサル企業幹部や先物取引委員会メンバーなどで組織されるデジタルドルプロジェクトが、2020年5月29日に初めてホワイトペーパーをまとめて発表しました。
画像引用:Digital Dollar Project Whitepaper
そのホワイトペーパーは、「デジタルドルプロジェクト 米CBDCの探索(Google翻訳)」と題されたもので、総合コンサルタント企業であるアクセンチュアのアナリストやコンサルティングディレクター、シニアディレクターなどとともに、CFTC(商品先物取引委員会の元委員長も参加している組織)によって策定されています。
大きな特徴として2層構造を提案
このホワイトペーパーで提案されているデジタル米ドルの大きな特徴としては、2層構造になっていることが挙げられます。
それは、現在の米における金融システムを考慮したうえのことであり、一般銀行に加え当局によって承認された金融機関を、一般消費者とFRB(連邦準備制度理事会)をつなぐための仲介的存在と位置付けるものです。
以下の画像は2層構造の概念図で、一番上段にFRBが位置し、中段には一般銀行や金融機関、下段に一般消費者が位置しています。
画像引用:Digital Dollar Project Whitepaper 2層構造モデル
この構想では、FRBが一般銀行や金融機関に対してデジタル米ドルを発行し、一般銀行や金融機関は一般消費者に対してデジタル米ドルを流通させるために機能することになります。
そして一般消費者は、このデジタル米ドルを自分の銀行口座やウォレットに保管しておくことができるようになっています。
さらに一般銀行や金融機関が口座に保管されているデジタル米ドルを担保にして融資を展開することも、この構想では視野に入れられているようです。
2層構造の重要ポイント
ホワイトペーパーでは、米ドルCBDC構想にとって重要ポイントとなるのは、関連する人々が仕組み自体を正しく理解することであり、この仕組みの中でトークンがどう動いているのかを把握しておくことだとしています。
そして規制面では、デジタル米ドルの利用者である一般消費者のプライバシー保護に加え、AML(アンチマネーロンダリング)とKYC(顧客確認)などに関する規制もクリアしておく必要があることを挙げています。
トークンベースのシステムとして構想
このホワイトペーパーでは、デジタル米ドルをトークンベースのもの、そして口座ベースのものの両方で比較検討しています。
画像引用:Digital Dollar Project Whitepaper トークンと口座の比較
トークンベースのシステムでは、受信した側でトランザクションを検証できる情報が含まれています。
つまりトークン受け取った側が検証することができますが、口座ベースのシステムの場合にはオペレーターが送信者を認証し、口座残高を確認しなければなりません。
またデジタル米ドルが発行されたとしても、現在利用されている紙幣などの現金は継続して流通されます。
それは現金も中央銀行が発行しているトークンと呼べるものであること、さらにプライバシーを守ることができ、安全性も高いことが挙げられるからです。
そしてトークンベースのシステムで構築されたデジタル米ドルであれば、現在の現金で活用されている口座などの媒体を補完することができることから、このホワイトペーパーではトークンベースのものとして構築することを検討しているようです。
幅広く応用するためのシステム
ホワイトペーパーでトークンベースのものとして発行すべきであると記述されているのには、他にも理由があります。
それは新型コロナウイルスの感染拡大による一般消費者の経済的影響を軽減する目的の給付金配布に際して、口座ベースのデジタル米ドル発行に関する法案が提案されていたことも影響しているようです。
またホワイトペーパーでは、デジタル米ドルはより早く、効率的で、なおかつ低コストで米ドルが幅広く応用できる、有用性につながるべきものだと指摘しています。
つまり明記は避けられてはいるものの、口座ベースのものでは満足できる結果にならないと指摘しているわけです。
デジタル米ドル構築までの道のり
実際にデジタル米ドルのシステムが構築されるまでには、いろいろなパイロットプログラムやテストを繰り返していく必要があります。
国内における決済や国際決済、さらには前述したような政府給付金のケースなど幅広い場面で活用されるためです。
またマネーサプライに対する影響や技術面での考慮だけでなく、AML/KYCルールに関してなど、考慮すべき要素は幅広く存在します。
さらに理論構築ができたとしても、その理論通りに運用できるかどうかを確認するためには、テストを繰り返さなければなりません。
そしてそのテスト段階までは技術者や有識者などが、アイデアやこれまでの経験、知識を提供することができても、その内容を決定し、実現させていくためには議員などの政治家が意思決定していく必要があることも述べられています。
これらを考え合わせると、デジタル米ドルが構築できるまでには少なくとも5年から10年の時間がかかることを指摘しています。
まとめ
初めてまとめられた、米ドルのCBDC構想に関するホワイトペーパーの内容についてご説明しました。
政治的な色合いを一切つけず、合理的に構築されたホワイトペーパーであり、デジタル米ドルのあるべき姿がまとめられていますが、このホワイトペーパーに沿って構築をすぐに始めたとしても、完成するまでには5年から10年かかるわけです。
しかもこのホワイトペーパーの内容は、FRBなどが関与したものではなく、合衆国政府が承認したものでもありません。
すぐに構築に向けて動き出せるものではないわけです。
構築の意思決定をするまでの期間が数年かかるとすると、完成までには10年以上かかってしまう計算になります。
中国のデジタル人民元は、確実にそれよりも早く運用されるでしょう。
出遅れているデジタル米ドルは、世界の基軸通貨の位置付けを守ることができるでしょうか。
また、デジタル人民元は米中の対立にどのような影響を及ぼしていくのでしょうか。
デジタル通貨領域での米中対立に注目しておく必要がありそうです。