米のCBDCに対する意識が変化してきている?
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- 2020.02.08.
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- 米のCBDCに対する意識が変化してきている?
中国からは新型コロナウイルスに関するニュースが次々と入ってきていますが、水面下では中国人民銀行のデジタル人民元、すなわちCBDCの発行に向けて着々と準備が進められているはずです。
中国のCBDCは世界の基軸通貨である米ドルから覇権を奪うことが目的のひとつですが、肝心の米はこれまでCBDC発行に関してあまり意欲的ではありませんでした。
しかしここにきてFBR理事がCBDCの重要性を認識している発言をおこなっています。
これは米のCBDCへの意識が変化してきているということなのでしょうか。
また日本でもデジタル人民元に対抗するにはFRBの協力が必要であることを訴え始めています。
米のCBDCを巡る発言や変化などに加え、日本の動きも合わせてご説明しましょう。
FRB理事がCBDCの重要性をスピーチ
米の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のBrainard理事が、スタンフォード大学経営大学院の講演に際して用意した講演原稿の中に、CBDCの重要性や実現の可能性などを研究していることを説明する内容が含まれていることが明らかになりました。
このことは、Bloombergが2020年2月5日に報道し、FRBもニュースとしてwebsiteの中で発表しています。
画像引用:Bloomberg
Brainard理事のスピーチは「ペイメントと通貨のデジタル化」と題されたもので、米ドルのデジタル通貨化について米ドルの世界的な位置付けや役割を考えると、CBDCへ知識や理解、そしてこれに必要な政策策定に関して先導していくことが重要であるとなっています。
またCBDCに不可欠なブロックチェーン技術やデジタル通貨そのものに対する研究や実験も他国の中央銀行と共同で実施しているため、理解が深まっていることを説明しています。
さらに仮想通貨リブラを計画しているフェイスブックには世界の人口の3割にあたるアクティブユーザーがいることから、通貨の形態や発行主体だけでなく、支払いに関しての決済方法や記録はどうあるべきかなどに関し、早急に議論する必要があることが含まれています。
CBDC開発の可能性について
Brainard理事の講演内容は、FRBのwebsite内にあるNews&Eventsページでも2020年2月5日に掲載されています。
画像引用:FRB News&Events
しかし掲載されている内容を読んでも、CBDCを発行することに関して明言はされておらず、さらに発行するにあたっては幾つもの考慮するべきことがあるとしています。
その中には従来からある決済システムを改善することができるかという点や、CBDC運用時のリスクはどのように軽減するのかという点、利用者のプライバシーをどうやって保護するのか、また発行に関する法的課題のクリアなどがあるとしています。
加えて一般消費者が決済のために利用するリテール決済型のCBDCを発行することは、現金から離脱することにつながり、金融システムそのものの弱体化にもつながりかねないことを危惧しており、あまり積極的ではない様子がうかがえます。
米はホールセール決済型CBDCを目指す?
上記のように一般消費者の支払い決済に利用されるリテール決済型のCBDCに対しては慎重である理由としては、FRBのPowell議長が2019年11月19日付けの書簡の中で述べているのと同じ主旨であると考えられます。
Powell議長の書簡は、共和党French Hill下院議員と民主党Bill Foster下院議員によるFRBのCBDCについての質問に対する回答として書かれています。
この中でPowell議長は、CBDCがどのような利益をもたらすのかを検討はしているが、積極的に開発を進めているわけではないこと。
そして他国では現金離れが進んでいるが、米では変わらず現金需要が高いことも積極的でない理由に挙げていました。
さらに、2019年12月7日のニュース記事「米と欧州とのデジタル通貨に対する取り組み姿勢の落差」内でもご説明したように、Powell議長はムニューシン財務長官と議論した結論として、既に高度な決済システムがあることから、今後5年間はCBDCを発行する必要はないと述べています。
これらのことを考え合わせると、FRBはCBDCについて金融機関同士の大口決済やトークンの資金決済、外国為替の取引決済などのホールセール決済として活用することだけ視野に入れている可能性があります。
米国内でのCBDC推進派の動き
FRBはCBDCの中でもリテール決済型のCBDCにはあまり積極的でないようであり、仮に進めるとしてもホールセール決済型のCBDCに限定される可能性が高いようです。
しかしCFTC(米商品先物取引委員会)の前会長であるChristopher Giancarlo氏は、米ドルの流通を高めることが政府への信頼だけでなく、世界の経済を米ドル主導で高めていけるとして、CBDCを推進するための団体である「Digital Dollar Foundation」を新たに設立しています。
日本では自民党がFRBの協力に言及
米がCBDCを発行することを望んでいる声は、米国内だけから起きているのではありません。
実は日本の自民党からも、米のCBDCに対する協力を望む声が上がっています。
これは、日本政府に対してCBDCについての提言をまとめている自民党CBDC対策チームの中山展宏外務大臣政務官が語ったものと報道されています。
画像引用:TheBlock
報道によると、自民党の対策チームは中国のCBDCであるデジタル人民元に対して強い危機感を抱いているようで、発行されれば中国の一帯一路政策の関連諸国で活用されるだけでなく、スタンダードな存在になる可能性を指摘しています。
それゆえに、中国は現在の準備通貨制度だけでなく、世界の基軸通貨である米ドルの座を奪うための覇権争いをしようとしていると理解しており、それには国際決済システムや米の存在なしには対抗する術がないことも訴えています。
これらのことから、中国のCBDCの影響を調査する際にも、FRBの協力が不可欠であると述べています。
これはつまり中国のCBDCに対抗できるのは米のCBDC発行に頼るしかなく、日本がどうあがいても対抗できないこと。
しかしこれまでのFRBなどの動きを見ている限りでは、なかなか進んでいないようでもあり、このままでは一帯一路政策の関連諸国を中心として世界中に中国のCBDCが広まってしまい、米ドルの現在の地位も危うい。
何とかCBDCを進められないものかと訴えていると読み取ることができるのではないでしょうか。
なお2020年2月5日のニュース記事「遅れつつも日本で進み始めたCBDCの検討」でもご説明したように、自民党は今春にも政府に対してCBDC発行に関する提言ができるよう、まとめの作業に入っています。
まとめ
米のCBDCに対する意識が少しづつ変化していることについてご説明しました。
今後5年間CBDCを発行する必要がないと述べていた昨年末から比べると、FRBも多少の危機感を抱きはじめたようですが、それでもなお中国のデジタル人民元に対する危機感はまだまだ薄いようです。
中国のCBDCであるデジタル人民元の影響力は非常に大きなものになるはずです。
米に危機感が薄いのは、米ドルが現在の基軸通貨になっている現実があるからでしょう。
しかし中国の一帯一路政策は着実にデジタル人民元を定着させ、拡大し、米ドルの地位を脅かしていくはずです。
ホールセール決済型のCBDCで、中国との覇権争いを優位に戦うことができるのでしょうか。
解決しなければならない課題は山積みかもしれませんが、一刻も早くリテール決済型の米ドルCBDCを発行させてほしいものです。
そして日本でも時を同じくして円のCBDCを発行すれば、日本経済も今以上に活性化できるのかもしれません。
自民党議員の頑張りに期待しましょう。