ウォレット企業と取引所複数がトラベルルール順守で覚書
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- 2019.10.16.
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2019年6月に開催されたG20の前に金融活動作業部会(FATF)が発表したガイダンスには、マネーロンダリングやテロ支援資金供与を防ぐためのルールが盛り込まれていました。
G20でこのガイダンスが支持されたため、VASP(仮想資産サービス提供者)はガイダンスを実行に移すための協議をおこなっているところです。
そんな中、ガイダンスの内容を遵守できる仮想通貨ウォレットの開発に取り組んでいる企業が、国内の複数の仮想通貨取引所とガイダンスに基づくトラベルルールを順守するための技術導入に関する覚書を交わしたと、コインテレグラフ日本版が公表しました。
トラベルルールとはいったいどのようなものなのでしょうか。
またこのルールを順守した技術導入の覚書が、ニュースになる理由とはどのようなものなのでしょうか。
その意味を含め、詳しくご説明しましょう。
仮想通貨ウォレット開発企業が複数取引所と覚書
仮想通貨ウォレットの中でも特にモバイル用ウォレットに関して、FATFのガイダンスにあるトラベルルールに適応させるべく開発に取り組んでいるCoolBitX社開発の技術を、日本国内の仮想通貨取引所が導入もしくは導入検討を前提とする覚書を交わしたと発表しました。
CoolBitX社と覚書を交わしたのはSBI VirtuarCurrencies、Coincheck、BIT Pointと名前が明かされていない1社の計4社です。
またこの4社以外にも導入を検討している仮想通貨取引所があることが明かされています。
画像引用:CoolbitX
トラベルルールについて
トラベルルールとは、仮想通貨を取引する、もしくはしようとしている顧客の情報を、VASP(仮想通貨に関する規制をつかさどる機関と仮想通貨取引所、ウォレット業者などの全ての仮想通貨に関連したサービスを提供する企業)間で共有することを定めたものです。
顧客の情報とは名前だけでなく、口座情報など、全ての個人情報を含んでおり、これら全ての情報をVASP間で相互に共有し合うことを指しています。
CoolBitX社の技術とは
CoolBitX社が開発した技術はSygna Bridge(シグナ・ブリッジ)と呼ばれるもので、送金者と受金者の情報を暗号化して共有できるシステムとなっています。
全ての仮想通貨と全ての取引が対象となっているため、どんな種類の仮想通貨であっても対象となります。
なおSygna Bridge自体には個人情報にアクセスする権利がないため、個人情報の保護に関しては各企業の対応に準じることとなります。
以下の画像は、Sygna Bridgeの概念図です。
画像引用:Sygna
銀行で国際送金する際にはSWIFTと呼ばれる国際銀行間通信協会が利用されますが、Sygna BridgeにもSWIFTと同様の機能が搭載されているようです。
例えばSWIFT にはSWIFTコードと呼ばれる銀行別の認識コードがあるように、VASPの認識コードを設けることで相手先を特定することができます。
こうすることで情報を受け取ったVASP側は、送金手続きが完了する前に送金先アドレスの確認ができるようになり、マネーロンダリングやテロ支援資金供与のブラックリストに入っている送金先アドレスかどうかを確かめることができるようになるわけです。
CoolBitX社のwebsiteでは、SBIホールディングスの北尾吉孝CEOのCoolBitXに対するコメントも掲載されています。
画像引用:CoolbitX
CoolBitXにはエコシステムを完成させる技術があると固く信じています。 この投資はSBIに戦略的な意味を持ち、暗号通貨エコシステムの青写真を作成するのに役立ちます。
引用:CoolbitX Google翻訳
トラベルルール順守の難しさとは
FATFのガイダンスに沿ったトラベルルールを実現させるには、技術的な問題が山積していると発表された当初からいわれていました。
まず1つが、顧客情報を求めてきた相手が本当にVASPかどうか判断する手立てがなかったことです。
不用意に顧客の個人情報を出してしまうと情報流出になってしまいます。
2つ目に、顧客の情報をどうやって伝達するのかという点です。
メールで送って万が一漏洩してしまっては、これも情報漏洩になってしまいます。
3つ目として、顧客が異なる名前で別々の取引所などに登録していた場合、これが同一人物であると判断できるのか、またどうやって判断するのかという点です。
特に中国の人などは中国語の名前だけでなく、英語名も一般的に使っているといわれています。
偽名での登録ではなく、一般的な名前での登録でも判断できない状態があり得るわけです。
これら以外にも、過去の顧客情報をいつまで共有するようにするのかといった点や、別の国のVASPがトラベルルールを順守していなければ情報共有できないといった点も問題視されていました。
FATFガイダンス実現の第一歩
CoolbitX社のSygna Bridgeに関する内容についてご紹介しましたが、上の項「トラベルルール順守の難しさとは」で説明した技術的な難しさの全てが解決されているわけではないことにお気づきでしたでしょうか。
「トラベルルール順守の難しさとは」の項にある1つ目と2つ目の課題はCoolbitX社のSygna Bridgeによって解決できるでしょう。
ただ3つ目とそれ以外の課題については、クリアできません。
しかしこれらはSygna Bridgeだけでクリアできる問題ではないはずです。
VASP側の今後の課題であったり、トラベルルールを世界標準にしていくことで解決できていくはずです。
とはいうものの、Sygna BridgeがFATFガイダンスに基づくトラベルルール順守の第一歩になっていることは間違いありません。
日本における今後のトラベルルール順守方法
Sygna Bridgeは海外企業が構築したシステムですが、実は日本でも仮想通貨用としてのSWIFTを創設する動きが2019年7月18日に、ロイターによって報道されています。
このプロジェクトは財務省と金融庁が主導しており、計画もFATFに承認されているだけでなく、専門家などと連携して既に開発が進められているとのことです。
この日本の仮想通貨用SWIFTがSygna Bridgeとどう違うのかなどは、詳細が不明なため判断することはできませんが、完成すれば国内のVASPの参加が義務付けられるのかもしれません。
トラベルルールが厳格化した場合の税金について
Sygna Bridgeや日本の仮想通貨用SWIFTなどはFATFのガイダンスに沿ったものであり、基本的にマネーロンダリングやテロ支援資金供与を防ぐことを目的としています。
しかし顧客情報を共有するVASPは、FATFのガイダンスでは監督をするのは国の機関であることが定義づけられています。
これはつまり、国の機関がVASPの全ての顧客データを共有することができるということです。
前述したように、日本におけるトラベルルール順守は財務省と金融庁が主導して進められていますが、これがもし国税庁も関わってきたとするとどうなるでしょう。
国税庁は財務省の外局という位置づけになっていますが、もし仮想通貨の課税に対してSygna Bridgeや仮想通貨用SWIFTを活用するとどうなっていくでしょう。
日本国内の仮想通貨取引所を使ってでた利益は、既に国税庁に把握されていますが、海外の仮想通貨FXなどの業者を使っていた場合の利益は、現時点では把握しきれていない可能性があります。
そのため、税金逃れを目的として海外の仮想通貨FX業者を使っている人もいるかもしれませんが、トラベルルール順守が世界的に広がっていった場合、国税庁はこれを適切な課税かどうかの審査のために活用していく可能性も否定できないでしょう。
つまり、いずれはどこの国の仮想通貨FX業者を使っても税金からは逃げられなくなるということです。
まとめ
国内の仮想通貨取引所数社がトラベルルールを順守するため、CoolbitX社と覚書を交わしたことについてご説明しました。
覚書を交わしただけでニュースになった理由がお判りいただけたかと思います。
この一歩は非常に小さなものではありますが、仮想通貨が世の中から信頼を得るためには非常に大きな一歩といえます。
そして、この動きは今後も広がりをみせていくことでしょう。
世界中のVASPで当然のようにこのルールが順守されるようになった時こそ、仮想通貨が世の中から信頼を勝ち得た時なのかもしれません。