ベネズエラが制裁回避に仮想通貨で外貨準備検討
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- 2019.09.29.
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2019年の4月時点で169万%のインフレ率に陥っているベネズエラにおいて、中央銀行が外貨準備として仮想通貨を用意することを考えていると2019年9月26日にBloombergが報じました。
どうしてベネズエラは仮想通貨を外貨準備として用意しなくてはいけないのでしょうか。
ベネズエラでは大統領自身が独自の仮想通貨ペトロを2018年に発行していたはずですが、ペトロはどうなったのでしょうか。
これらの詳細について詳しくお伝えしましょう。
ベネズエラ中央銀行が仮想通貨を外貨準備金に検討
経済がマイナス成長にある中で米から経済制裁を受けたことにより、ハイパーインフレを起こしているベネズエラの中央銀行が、仮想通貨を外貨準備金に加えることを検討していると報道されました。
検討されている仮想通貨は、ビットコインとイーサリアムだということです。
画像引用:Bloomberg
仮想通貨を外貨準備に加える目的
ではどうしてベネズエラ中央銀行は、ビットコインとイーサリアムを外貨準備に加えることを検討しているのでしょうか。
実は、この考えは中央銀行が考えた策ではなく、ベネズエラ国営の石油ガス関連企業であるPetroleos de Venezuela SAから要望があったとのことです。
画像引用:Petroleos de Venezuela SA
ベネズエラのマドゥーロ政権は米国から経済制裁を受けており、その影響もあって、海外に石油を輸出しても通常の送金方法で支払いを受け取ることが難しいとのことです。
その例としてBloombergは、Petroleos de Venezuela SA が今年8月に取引のための金融機関を見つけるのに大変苦労し、受け取る予定だった7億ドルのほとんどを中国元で受け取ったことを紹介しています。
そのため一般的な支払い方法でなく、ベネズエラ中央銀行から支払い側にビットコインやイーサリアムで送金してもらうよう依頼しており、中央銀行もこのことを検討しているようです。
加えて、これらの仮想通貨をベネズエラの国際準備金に加えることも提案されており、それについても合わせて検討しているようです。
ロシアの国際決済システムへの移行も検討
現在、多くの国の金融機関は海外送金に際してSWIFT(国際銀行間通信協会)を活用しているところがほとんどです。
SWIFTはベルギーが拠点の国際機関ではあるものの、米の影響を強く受けている機関でもあります。
そのため米によって経済制裁を指定された国の金融機関では、貿易取引に際してドル建てによる決済ができなくなってしまいます。
そこでベネズエラの中央銀行としては上記のような仮想通貨での送金だけでなく、ベネズエラの金融機関の決済システムをロシアが運営する国際決済メッセージングシステムへ切り替えることの可能性も検討しているようです。
こうすれば、今年8月のように苦労する必要がなくなるわけです。
ベネズエラの混乱と米からの経済制裁
そもそもどうしてベネズエラは、このように米から制裁を受けることになってしまったのでしょう。
それにはベネズエラの混乱についてもご説明しておかねばなりません。
ベネズエラに2人の大統領が誕生
ベネズエラには2人の大統領がいます。
一人はニコラス・マドゥロ大統領で、もう一人はフアン・グアイド暫定大統領です。
ニコラス・マドゥロ大統領の就任期間一期目が終わる前、2018年5月に大統領選挙が実施されることになっていましたが、その際マドゥロ大統領は敵対している反政府派のリーダーを政治的に排除してしまいました。
すなわち自らが選挙に勝てる状況を作り出したわけです。
そしてマドゥロ大統領は国際世論が反対するにもかかわらず大統領選挙を強行し、2019年1月に二期目の大統領として就任してしまいました。
反政府派は大統領選挙は不当なものであり、これで選ばれた大統領は正当な大統領とはいえないとして、マドゥロ大統領の一期目が終わった2019年1月以降の暫定大統領としてフアン・グアイド国会議長が就任することになりました。
2人の支持派は大きく二分
ベネズエラの2人の大統領を支持する国は、世界でも大きく二分されています。
大統領の座にこだわり、強硬手段を取ったマドゥロ大統領を支持するのは中国やロシア、イラン、北朝鮮などです。
一方、正当な選挙の実施を主張しているグアイド暫定大統領を支持しているのは米国やカナダ、EU、オーストラリア、そして日本などです。
グアイド暫定大統領支持派の中でも、最も強い態度で臨んでいるのが米国です。
米国の経済制裁について
実は米国によるベネズエラへの経済制裁は2015年から始まっており、2017年8月から実施された金融取引に関する制裁、2019年1月から実施された石油貿易に対する制裁で本格化しました。
金融取引に対する制裁では、ベネズエラ政府と国営企業との取引において、米国人と米の法人が関わることを禁止しています。
なおこの取引には金融面だけでなく、金取引や仮想通貨取引も含まれています。
また石油貿易に対する制裁では、ベネズエラからの石油輸入と、ベネズエラに対する石油輸出の両方を実質的に禁止しています。
ベネズエラは石油輸出が外貨獲得の大きな手段であり、このふたつの制裁でベネズエラのマドゥロ政権は、外貨獲得のための手足を半分ほどもがれたことになりました。
独自仮想通貨ペトロからビットコインへ
ベネズエラの経済成長率が大きく下げた状態が続いていた時に、米国からの経済制裁が加わったことから経済状態は限りなく破綻に近づき、それを打開するべくマドゥロ大統領が取った手段は、官製仮想通貨ペトロを発行することでした。
そして自らが積極的に使用促進のために動くとともに、年金をペトロで支給したり、パスポート取得にはペトロを使用することを条件としたり、銀行に専用窓口を作るように働きかけもおこなっていました。
しかし実際には、ペトロを取り扱っているとされた仮想通貨取引所16社のうち、7社の所在が見つからなかったり、ペトロの裏付け資産である石油50億バレルが供給可能と説明されていた石油採掘場には採掘機械が置かれてるだけだったことが報道され、マドゥロ政権は信用を失い続けました。
画像引用:REUTERS
一方、グアイド暫定大統領はビットコインのファンであることが米経済ジャーナリストのツイートで注目され、グアイド暫定大統領自身も2014年8月にベネズエラの法定通貨ボリビアで、ビットコイン取引ができる仮想通貨取引所設立に関して歓迎のツイートをしていたことが話題になりました。
画像引用:Juan Guaidó Twitter
まとめ
ベネズエラ中央銀行が米からの制裁を回避する手段として、ビットコインやイーサリアムを外貨準備に加えることを検討しているニュースと、そのニュースの背景にあるベネズエラの混乱や仮想通貨ペトロなどについてご説明しました。
結局のところ、マドゥロ大統領の強引なやり方と仮想通貨ペトロのいい加減さ、そして米の経済制裁によって少しづつではありますが、マドゥロ大統領の立場は危うくなり、グアイド暫定大統領が優位になってきているようです。
それはグアイド暫定大統領がビットコインを歓迎しており、中央銀行も制裁回避のためにビットコインに頼らねばならなくなったことに象徴されているのではないでしょうか。
ベネズエラの今後はまだまだ予断を許さない状況ではありますが、ビットコインに寛容な国に生まれ変わる可能性に期待したいものです。