FATF新ルールへの適合性が取引所の将来を左右
- 取引所
- 規制
- 2019.09.18.
- ニュース
- FATF新ルールへの適合性が取引所の将来を左右
金融活動作業部会(FATF)が仮想通貨のマネーロンダリング対策として2019年6月21日に発表した「解釈ノートとガイダンス」は、世界中の仮想通貨関連事業者が従うべき指針であることはG20で確認されました。
しかしこのガイダンスの実現は並大抵ではなく、関連事業者はどのように構築していくのかを模索しています。
そんな状況の中、ブロックチェーン関連のセキュリティを専門に行っている企業が、ガイダンス実現のための方法を提示しました。
また今後、仮想通貨取引所を含めた仮想通貨関連企業は、このガイダンスの実現が将来を左右するとも説明しています。
仮想通貨関連事業者が苦心しているFATFのガイダンスとはどのようなものなのでしょう。
またどういう理由で苦心しており、セキュリティ会社の提案とはどんなものなのか、詳しくご説明しましょう。
金融活動作業部会(FATF)が発表したガイダンス
G7とEC、GCCが加盟している政府間機関である金融活動作業部会(FATF)が、2019年6月21日に「解釈ノートとガイダンス」を発表しています。
この「解釈ノートとガイダンス」は、仮想通貨におけるマネーロンダリング規制を進めるために策定されました。
画像引用:FATF
しかしこのガイダンスに対しては、発表された当初から懸念する声が多く出ていました。
それは実現させるためのコストが膨大であること、また技術的に可能なのかどうかが判断できないことに由来したものでした。
これらのことに加えて、あまりに厳しすぎる規制が仮想通貨取引を闇取引に追いやってしまうのではないかという意見も聞かれていました。
FATFガイダンスのポイントとは
FATFが策定したガイダンスには色々な規制案が盛り込まれていますが、その中でも最も問題になったのが、仮想通貨の関連事業者が送金や受金する際、送り主と受取人両方の個人情報を記録しなければならないという点です。
これはすなわち仮想通貨関連事業者は、自社の顧客が送金する際の送金履歴だけでなく、送金先の受取人の個人情報まで入手・保管しなければならず、しかも受取人側の仮想通貨関連事業者も受取人の個人情報はもちろんですが、送金者の個人情報を入手・保管しておかねばならない点です。
つまり送り手側と受け取り側、両方の仮想通貨関連事業者がお互いに個人情報を入手し、保管できる環境を作っておかなければならないということです。
これがもし厳格に実行されれば、マネーロンダリングはほぼ不可能になるはずです。
FATFガイダンスの難しさとは
FATFのガイダンスが実現できるのかどうかという点で懸念の声が出ていたのには、大きく分けると以下の理由が挙げられています。
顧客データの送受信
送金者と受金者のそれぞれの個人情報を異なる仮想通貨関連事業者同士が共有するためには、そのためのインフラが整備されていなければなりませんが、現在はそれが皆無の状態です。
インフラ整備にかかる費用
送金・受金の顧客データを異なる仮想通貨関連事業者同士が共有するためのインフラを整備するのには、それなりの費用が掛かります。
その費用はいったい誰が出すべきなのか、はっきりした見解や指針がありません。
送受信システムの管理
顧客データを共有する送受信システムは、誰かが、何らかの形で管理していかなければ正しく機能しません。
誰が、どのように管理していくのかを定めておかなければ、仮にインフラだけが整備できても形だけにものになってしまいます。
また共有した顧客データはいつまで保管しておくのかなど、未確定の部分が非常に多くあります。
新規事業者に厳しくなる
仮想通貨業界は新しい分野であり、新規参入してくる企業がほとんどです。
送受信システムを必須とすることで、設備投資や管理に多額の費用が掛かることになり、新規参入企業にとっては厳しい環境となってしまいかねません。
仮想通貨の特徴が阻害される
FATFのガイダンスは、送金に関係した仮想通貨関連事業者が個人情報を共有するということですが、これは仮想通貨の大きな特徴でもある匿名性をなくしてしまうことにもつながっていきます。
FATFのガイダンスには従わざるを得ないことから、特に匿名性の高い仮想通貨などに関して、上場を廃止する取引所も出てきています。
最近の例では、韓国の仮想通貨取引所であるOKEx koreaがmonero(XMR)とdash(DASH)、zcash(ZEC)、super bitcoin(SBTC)、horizen(ZEN)の5種類の仮想通貨の上場を廃止しました。
これらはいずれも匿名性通貨であり、FATFのガイダンスに適合させることができないため上場が廃止されました。
個人間取引に流れる危険性
仮想通貨取引に際して、仮想通貨関連事業者を通して取引きしたのでは個人情報が残ってしまうため、それを防ごうと個々の端末同士で取引するピアツーピアトランザクションに流れてしまう可能性があります。
セキュリティ会社提案の顧客情報の安全な共有法
仮想通貨関連事業者は、FATFのガイダンスに沿ったシステムの構築は非常に難しいと考えており、ソリューション企業もシステム構築に躍起になっていました。
このような状況の中、2019年9月10日にブロックチェーンセキュリティ会社であるCipherTrace社が、ウォレットプロバイダーや仮想通貨取引所向けのFATFのガイダンスに沿ったオープンソースソフトウェアとホワイトぺーパーを発表しました。
画像引用:CipherTrace
CipherTrace社によると、仮想通貨業界はFATFのガイダンスに従うことは非常に難しいと考えているようだが、実は可能であると語っています。
また、同社の情報共有アーキテクチャを使用することで、仮想通貨取引所やウォレットプロバイダー同士が顧客情報を外部に漏洩することなく共有できるとしています。
ガイドラインの遵守が取引所の優劣に
CipherTrace社は、今後FATFのガイドラインに沿った運営をしていく取引所が増えていくことを予測しています。
現時点で国が正式に採択していなくても、いずれは遵守しなくてはいけない流れになっています。
ガイドラインを遵守する取引所は積極的な推進に努め、遵守していない取引所は国としてガイドラインが採択された時点で仕方なく取り組むことになると考えているようです。
これはつまり、FATFのガイドラインを遵守しているのかどうかのコンプライアンスが、取引所の差別化と有意差につながっていくともいえます。
FATFも遵守状況を発表予定
FATFでは2020年6月には、過去一年の間にガイダンスがどれほど遵守されていたのかの状況を発表するとしています。
どういう形での発表になるのかは明らかにされていませんが、もし事業者を挙げて発表されるとすると、コンプライアンスを遵守している事業者かどうかがオープンにされるということです。
これらを考え合わせると、仮想通貨関連事業者は2020年6月までにFATFのガイドラインに沿った運営ができるよう事業改革をおこなってくるはずです。
また韓国の仮想通貨取引所OKEx koreaのように、匿名性通貨の上場廃止も相次ぐことも予想されます。
まとめ
FATFが発表したガイダンスが、どのように仮想通貨関連事業者に影響していくのかについてご説明しました。
仮想通貨は、取引の匿名性が特徴でもありましたが、今後はその特徴も薄れていくのかもしれません。
しかし仮想通貨のマネーロンダリング対策は必要なものであり、今後も規制は厳しくなっていくことが予想されます。
それは仕方のないことなのでしょう。
ただ、ガイダンスへの遵守状況が発表されることは、仮想通貨関連事業者の経営・運営姿勢を判断できる良い機会です。
自分自身が利用している仮想通貨FX業者などが、本当に信頼できる業者なのか見極めることに活用できるのではないでしょうか。