米はG20合意の仮想通貨枠組みに納得していない?
- 規制
- 2019.08.16.
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2019年6月28日と29日に大阪で開催されたG20大阪サミットでは、金融活動作業部会(FATF)が公表した仮想通貨のマネーロンダリングとテロ資金供与対策についてのガイドラインを歓迎するという首脳宣言を出しています。
しかしG20大阪サミットからおよそ2か月経った今になって、米国の証券取引委員会メンバーから、仮想通貨の規制の枠組みは個々の国の事情で決めるべきだとの見解が挙がってきました。
この見解の意味や背景はどういうものなのでしょうか。
詳しくご説明しましょう。
証券取引委員会コミッショナーが講演で主張
シンガポール社会科学大学(SUSS)が2019年7月30日に開催した「SUSSコンバージェンスフォーラム(SUSS Convergence Forum)」で、米国の証券取引委員会のコミッショナーであるHester Peirce氏が講演を行いました。
講演の中で同氏は、仮想通貨に対する規制はそれぞれの国が、それぞれの事情に基づいて決めるべきであり、世界的に統一して作る規制にとらわれるべきではないと述べています。
Hester Peirce氏について
Hester Peirce氏は米証券取引委員会(SEC)のコミッショナーであり、法律家でもあります。
同氏はこれまでも仮想通貨に対して前向きな発言をすることで知られており、「クリプトママ(crypto mom)」とも呼ばれています。
Hester Peirce氏の主張内容
同氏の主張は、仮想通貨は世界中の人々を同じ活動で結びつけることができるのが魅力でもあるとし、同一の規制にとらわれずにそれぞれの国独自の規制をすることで摩擦は生じるかもしれないが、それが競争となっていき、そこから教訓も得ることができるというものです。
つまり、世界中の各国が統一した規制を実施するのではなく、それぞれに国が規制に対して違った視点から取り組んでいくことで、仮想通貨によって利害が生じる全ての人々に最も良い形の取り組み方を見つけることができると主張しているわけです。
G20大阪サミットでの首脳宣言内容
ではG20大阪サミットの首脳宣言では、仮想通貨に対してどのような方針を固めたのでしょうか。
以下は、首脳宣言内容から抜粋したものです。
我々は,マネーロンダリング及びテロ資金供与への対策のため,最近改訂された,仮想資産や関連業者に対する金融活動作業部会(FATF)基準を適用するとのコミットメントを再確認する。我々は,FATFの解釈ノート及びガイダンスの採択を歓迎する。
(中略)
我々は,マネーロンダリング,テロ資金供与及び拡散金融と闘い,これを防止するための国際基準を設定することにおけるFATFの不可欠な役割を強調する国連安保理決議2462号を歓迎する。
引用:G20大阪首脳宣言
これを見ると、G20大阪サミットでは金融活動作業部会(FATF)の解釈ノートとガイダンスの採択を歓迎すると明記されています。
ではFATFの解釈ノートとガイダンスの採択とは、どのような内容なのでしょうか。
FATFの解釈ノートとガイダンスの採択の内容
画像引用:FATF
FATFのガイダンスでは、仮想通貨が犯罪やテロに使用されることのないよう、世界の国々が一刻も早く協調措置を取るよう主張しています。
また仮想通貨の定義について触れるとともに、仮想通貨取引所と特定のウォレットを提供する業者、ICOに関する金融サービス業者などを仮想通貨サービスプロバイダーと位置付け、彼らが継続的に監視し、記録を保持、マネロンやテロ支援の疑いがある取引の報告を含めた調査を実施するべきであるとも主張しています。
解釈ノート内では、仮想通貨サービスプロバイダーに対する規制と、仮想通貨の送金や受金についての規制などが記されています。
仮想通貨サービスプロバイダーに対する規制では、開業にあたっての免許制や登録制の徹底と、それに違反した場合の制裁措置に加え、規制当局が免許や登録の撤回や停止などができる権限を持つことなどが記されています。
仮想通貨の送金と受金に対しては、仮想通貨サービスプロバイダーが1,000ドル以上もしくは1,000ユーロ以上などの額を送金、受金する場合には、身元確認をする必要性に言及しています。
またこれらの送金と受金の履歴だけでなく、マネロンやテロ支援の疑いがあるケースも正確な身元情報を記録しておき、捜査当局からの提出要請に応えられる体制を整えておくことが必要だとの記述もあります。
仮想通貨を統一的に規制する難しさ
現在仮想通貨は世界中の多くの国々の人々によって取引されていますが、国によって仮想通貨に対する捉え方はまちまちであり、好意的に受け止めている国や、取引そのものを全面的に禁止している国、海外の取引所を使うことは禁止ではあるが自国で仮想通貨を発行しようとしている国などさまざまです
しかも仮想通貨のほとんどは、中央集権化されていないことが大きな特徴でもあります。
中央集権化されていない仮想通貨は、悪意のある人や行動から影響を受けることが少なく、抑止力も備えているといえます。
しかしその一方で、中央集権化された法定通貨のように全てをコントロールすることができない存在でもあります。
法定通貨であれば価値をコントロールすることも可能ですが、非中央集権化された存在である仮想通貨の場合はそれすら不可能です。
つまり国や政府が仮想通貨に振り回されてしまうリスクが存在しているといえます。
それゆえに、仮想通貨に対する受け止め方が国によって異なってくるのは当然でしょう。
G20大阪サミットに参加した各国首脳は、仮想通貨に対する規制の枠組みを作ることに合意したものの、自国の考え方だけを主張し続けても成立しづらいと感じているのかもしれません。
Hester Peirce氏の発言の真意とは
画像引用:SEC Speech
このような状況を踏まえ、冒頭に紹介したHester Peirce氏の講演時の発言を考えてみましょう。
Hester Peirce氏が講演の結論として語っていたことは、国際的な規制の枠組みを作ることは賢明ではなく、色々な情報を共有することで環境を整えることができるため、各国間が相互に学びながら不備を整えていき、他国が作った規制の枠組みを参考にすると述べています。
これは自国、この場合は米国ということになりますが、米国が独自で規制の枠組みを作ったとしても納得できない国が出てくるだろうから、それぞれの国が独自に考え、お互いに参考にしていきましょうという意味に取れます。
すなわち、米証券取引委員会はG20大阪サミットの首脳宣言について、納得していないわけでも、不満があるわけでもなく、どう考えていけば良いのか困っているといったところだと推察されます。
各国の仮想通貨に対するスタンスが違いすぎ、国際的な規制の枠組み作りが難航しており、それがこのような表現になったと考えられます。
まとめ
G20大阪サミットの首脳宣言を覆すような米証券取引委員会コミッショナーHester Peirce氏の発言についてご説明しました。
この発言の真意は、おそらく規制の枠組み作りが難航していることの現れでしょう。
規制の枠組みが出来上がるには、まだまだ時間がかかるということです。
しかし一刻も早く作り上げなければ、ここまで発展してきた仮想通貨の将来がどこへ進んでいくか、全く見えないものになってしまいます。
仮想通貨はこれまでの概念である「通貨は国が発行するものであり、国の基礎を成すものである」ということを覆してしまう可能性がありますが、しかしその一方で、大いなる可能性を秘めていることも事実でしょう。
世界的な規制の枠組みが作り上げられた時こそ、世界が大きく変革する時なのかもしれません。