イランで仮想通貨取引を認めない法案が成立
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- 2019.08.07.
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米からの経済制裁で苦慮しているイラン政府が、国内での全ての仮想通貨取引に対して法的に認めないものとする法案を成立させました。
これによってイラン国内での仮想通貨取引は違法となりますが、その一方で仮想通貨のマイニングに対しては容認する方針を固めています。
仮想通貨取引は認めないのに、なぜマイニングは容認するのでしょうか。
その意味するところは何なのでしょう。
このニュースの詳細とともに、その背景についてもご説明しましょう。
イラン政府が仮想通貨取引を認めない法案成立
2019年8月4日イランのPRESS TVが、イラン政府が全ての仮想通貨取引に関して、法的に認めない法案を成立させたことを報道しました。
画像引用:PRESS TV
成立した法案には、イラン政府とイラン国内の全ての銀行は仮想通貨を法定通貨として認めないだけでなく、中央銀行もその価値を認めないことが含まれる内容になっています。
前月も仮想通貨取引に警告
イランのこの法案が成立するおよそひと月ほど前、同国の中央銀行新技術部門の副総裁であるNasser Hakimi氏が、ビットコインなどの仮想通貨や電子キャッシュを取引することは、違法行為だと警告しています。
加えて、儲かることが当たり前のような表現の仮想通貨広告や、これらの広告を出稿している業者にも注意が必要であり、ボラティリティの大きなビットコイン取引にはリスクが必ず付きまとうことを説明しています。
つまり、法案で仮想通貨の取引を認めないようにする以前から、違法行為であることやリスクが大きいことをさかんにアピールしていたわけです。
マイニングは条件さえ整えば許可
仮想通貨の売買は法案によって認めないことが決まりましたが、その一方で仮想通貨のマイニングに関する規制は非常に緩やかで、条件さえ遵守できればマイニングは許可されています。
なおイランでは、仮想通貨のマイニングを国の正式な産業として2019年7月28日の閣議で認めたことが報じられています。
マイニングが許可される条件とは以下のようなものです。
1.地理的条件
イランでマイニングできるのは、イランの首都テヘランとエステファンの中心地以外で、なおかつ各省の中心から30㎞の外側であることと定められています。
2.マイニングマシンに対する条件
イランでの仮想通貨のマイニングに用いることができるマイニングマシンには規定が設けられており、それに準じたものでなければ用いることはできません。
3.電力に対する課金
仮想通貨のマイニングマシンを稼働させるには非常に大量の電力を消費します。
そのため、マイニングのために消費した電力に対して一定の料金が課金されます。
仮想通貨取引はダメでマイニングはOKな理由
イラン国内ではあらゆる仮想通貨取引が認められず、中央銀行も価値を認めないとする法案が成立しましたが、なぜマイニングは条件さえ整えば許可されるのでしょうか。
普通に考えれば、仮想通貨取引を認めないならば、マイニングも同様に禁止するのではないでしょうか。
実はここにイランの苦しい事情があります。
アメリカによる経済的制裁
米はオバマ政権時代にイランとの核に対する合意に成功しましたが、トランプ政権に代わるとその合意から2018年に離脱し、イランに対して原油と金融に関して制限を加える制裁を再開し始めました。
また2019年5月にはイランにとって経済の柱である石油輸出にダメージを与えるため、イラン産の原油を全面的に輸入禁止する措置を取りました。
この措置の影響力は非常に大きく、イランの経済は非常に低迷し始めています。
混乱する経済による仮想通貨への回避行動
米の経済御裁はイランの経済を不安定化し、イラン国民は不景気にあえいでいます。
そのため自国通貨のリスクを避ける意味もあり、ビットコインなどの仮想通貨を取引しようとしています。
これは国民としては当然の行為でしょうが、多くの人々が仮想通貨取引をし始めると、国の経済がこれまで以上に悪化し、国の経済そのものが崩壊してしまいます。
また仮想通貨取引高が極端に上がってくると、米から経済制裁の回避手段として仮想通貨を利用している証拠であると指摘されてしまいます。
イランは過去に独自の国営仮想通貨を発行しようと計画していましたが、米ドルに対するアクセス制限を国営仮想通貨で緩和しようとしていると指摘されていました。
すなわち、米の監視の目が仮想通貨に向くことを避けたい意向があることも考えられます。
米の厳しい監視の目
米の経済制裁はイランを国際的な資金の流れから外すことを目的としています。
そのため、ベルギーの国際銀行間通信協会が管理・運営している送金システムまで監視しています。
もちろん米としてもイランが仮想通貨に回避することは予想しており、財務省から仮想通貨取引業者などにイランやイラン人との取引を控えるように通達が出ています。
ただし、仮想通貨の取引を完全に取り締まることは難しいといえます。
海外の仮想通貨FXなどを経験した人にはお分かりでしょうが、海外の取引所では本人確認などがなくても簡単に取引できるところが多くあります。
また仮に本人確認を徹底したとしても、世界中の全ての仮想通貨取引所が、米の通達通りに取引を控えるとは考えにくいことも挙げられます。
イランがマイニングだけは認めている理由
イランはあらゆる仮想通貨取引を認めず、仮想通貨の価値を銀行が認めない法案は成立させましたが、米の経済制裁は続いており、イランそのものが経済的に楽になったわけではありません。
しかも仮想通貨取引に対する通達もあり、厳しい状況ではあるものの、仮想通貨取引は全てを監視しきれるものではなく、イランの国内企業が海外との決済に使うことができるのはもはや仮想通貨しか残されていません。
海外と決済ができなくなれば、イランは今以上に混乱に陥ってしまいます。
米の経済制裁に対してイランができる唯一の方法は、やはり仮想通貨しか残されていないわけです。
その仮想通貨が自ら作り出すことができるのであれば、規制する必要はないといえます。
マイニングには膨大な電力が必要とされますが、イランはもともと電気料金が安いため、大量に消費してもマイニングのコストパフォーマンスは高いでしょう。
すなわちイランにとってマイニングで仮想通貨を作り出し、国際的決済に利用するのは最も効率的な方法だということです。
まとめ
イランで仮想通貨取引を認めず、価値も認めないとする法案成立について、その背景などもご紹介しました。
イランが米からの制裁を受けながらも生き残っていくためには、仮想通貨に活路を見いだすしかありません。
しかし国として、国民の仮想通貨取引を認めてしまうと、米への刺激も大きくなるだけでなく、国の根幹が揺らいでしまいかねません。
そこで全てを監視することが難しい仮想通貨のマイニングだけを許可し、仮想通貨を大量に作らせ、国際的決済に利用しようと考えていると思われます。
このような形で仮想通貨がクローズアップされることは、仮想通貨にとって決してプラスに働くとはいえませんが、これも世界的に規制が定まっていない現在の仮想通貨の定めなのかもしれません。