米国の仮想通貨企業に出資する三菱UFJグループ
- 仮想通貨関連
- 2019.05.04.
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2019年4月、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループは、アメリカの仮想通貨企業Chainalysis, Inc.(以下「チェイナリシス社」)へ出資したことを発表しました。
正式な発表はないものの、その出資額については6〜7億円相当ではないかと推定されています。
本出資の背景には、「応用が進むブロックチェーン技術や、分散型の金融システムを支えるコンプライアンス技術を強化していきたい」との考えがあるようです。
三菱UFJグループがチェイナリシス社に出資した内容や狙い、チェイナリシス社の技術や取り組みについて解説していきましょう。
三菱UFJグループが米仮想通貨企業チェイナリシス社に出資
まずは、三菱UFJグループがおこなった出資内容の詳細を見ていきましょう。
2019年4月1日、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループの連結子会社である株式会社三菱UFJイノベーション・パートナーズは、運営ファンドである三菱UFJイノベーション・パートナーズ1号投資事業組合を通じて、アメリカのチェイナリシス社へ出資をおこなったことを公式に発表しました。
出資額は6、7億円相当と推定
三菱UFJグループ側は出資額を公表していませんが、チェイナリシス社の公式ブログには「MUFG(三菱UFJグループ)とSozo Venturesから600万ドルを調達した」と記載があることから、その額は「6、7億円相当」ではないかと推定されています。
ちなみにSozo Venturesとは、ITベンチャー企業への投資をおこなう会社で、アメリカと日本にオフィスを持っています。
本出資によりチェイナリシス社は、アジア太平洋地域での事業展開の拡大とオフィス開設を検討しています。
参照⇒株式会社三菱 UFJ フィナンシャル・グループ Chainalysis への出資について
参照⇒チェイナリシス社 Chainalysis Secures Strategic Investment from Japan Fintech Experts for APAC Expansion
三菱UFJグループがチェイナリシス社へ出資した目的は?
三菱UFJグループがチェイナリシス社へ出資した目的は、金融の仕組みそのものを変革する分散型技術を支える法規制遵守への対応強化です。
今後、世界中の金融機関で、次世代の金融システムを信頼性あるものにするためのコンプライアンス態勢強化が求められるようになります。
「次世代の金融システム」とは、具体的にはブロックチェーン(分散台帳技術)をはじめとする分散型の金融システムのことを指しています。
日本では、仮想通貨に使われる技術として一般への認知が広まったブロックチェーンですが、未来投資戦略においては「ブロックチェーン技術は金融の仕組みそのものを変革する可能性が高いため」、「金融ビジネスの競争力を確保するという観点から、金融分野における(ブロックチェーン技術の)実用化に向けた取組を先取的に進める」としています。
参照⇒株式会社三菱総合研究所 ICT によるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究 報告書
今回の三菱UFJグループの出資の狙いも、ずばり「金融ビジネスの競争力確保」にあるはずです。
そして今後、金融分野で競争力をつけていくためには、新たな金融システムの基盤への信頼性を高める必要があります。
近年、仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーン等の分散台帳技術の研究や分散型の金融システムへの応用が進む中、このシステムをより信頼性のあるものにするためには、それらを支えうるシステム基盤や法規制遵守への対応が求められています。
引用元⇒株式会社三菱 UFJ フィナンシャル・グループ Chainalysis への出資について
1つ具体例を挙げますと、仮想通貨分野においてはマネーロンダリング対策が不可欠です。
取引の全履歴を公開記録するブロックチェーン技術を採用する仮想通貨は、マネーロンダリングの手段としては程遠いようにも思えます。
仮想通貨はマネーロンダリングに使用しやすい一面があり、種類の異なる仮想通貨間取で取引を繰り返したり、本人確認不要の取引所を経由したりすれば、その追跡は限りなく困難なものとなってしまうためです。
またもう一つの問題として、仮想通貨の不正入手を狙った取引所へのハッキングがあります。
アメリカのあるセキュリティー企業の調査によれば、2018年に盗難被害にあった仮想通貨は17億ドル。日本円にして、なんと約1,900億円にものぼります。
この数字は前年の3.6倍に及んでおり、冷え込みを見せるマーケットとは対照的に、仮想通貨の盗難被害が急増していることを示します。
このような現状を踏まえ、三菱UFJグループは、チェイナリシス社の有するコンプライアンス技術がよりいっそう重要なものとなると考えているわけです。
次の段落では、チェイナリシス社の最近の取り組みを見ていきましょう。
チェイナリシス社は監視する仮想通貨の種類を拡大
チェイナリシス社は世界規模でのマネーロンダリング対策活動の一環として、監視・追跡する仮想通貨を10種類に拡大したことを発表しました。
今回追加されたコインは、下記の通りです。
- ステーブルコイン3種
- ジェミニ・ドル(GUSD)
- テザー(USDT)
- USDコイン(USDC)
- バイナンスコイン(BNB)
なお、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ビットコインキャッシュ(BCH)、ライトコイン(LTC)、トゥルーUSD(TUSD)、パクソス(PAX)については、以前から監視対象となっていました。
参照⇒コインテレグラフ 三菱UFJ出資の米チェイナリシス、監視対象の仮想通貨を10種類へ拡大
チェイナリシス社の共同創設者でCEOのジョナサン・レビン氏は「真にボーダーレスの金融システムが主流になっていくうえで、仮想通貨業界における国際的な規制は避けられない」と述べています。
三菱UFJグループのこれまでの仮想通貨領域への取り組み
三菱UFJグループは、ブロックチェーン技術を使った独自の仮想通貨「coin(コイン)」(MUFG COINから改名)の開発を進めており、2019年後半に実用化する方針です。
coinは1コイン=1円に固定することで、価格変動幅の問題に対処できる点が特徴です。
また、ブロックチェーン技術を使うことでユーザーのプライバシーを守りつつ、買い物データを収集することが可能となり、加盟店にとっては新サービスの展開や従来のサービスの改善につなげることができるとの狙いもあります。
三菱UFJグループ社長の三毛兼承氏は朝日新聞のインタビューに応えて「今までにない新しい価値を提供していきたい」と述べています。
参照⇒朝日新聞 「MUFGコイン」今年後半に実用化へ 三毛社長が語る
また三菱UFJグループは、独自の仮想通貨開発以外にも、ブロックチェーン事業の本格化へ向け共同会社を設立するなど動きを見せています。
2019年2月には、新たなペイメントネットワーク事業の本格化に向け、高速クラウド配信プラットフォームを有するAkamaiと共同会社を設立しています。
これによってIoT 時代を見据えた多様な決済サービスでの活用や、ペイメントネットワーク事業のグローバル展開の拡充をめざしているようです。
参照⇒株式会社三菱 UFJ フィナンシャル・グループ 「Global Open Network 株式会社」共同設立について
まとめ
三菱UFJグループは新たな金融システムの競争力を高めることを狙いとして、仮想通貨やブロックチェーン技術におけるコンプライアンス技術を有するチェイナリシス社へ出資をおこないました。
三菱UFJグループ自身も2017年から独自の仮想通貨「coin」の開発・実証実験を進めたり、ブロックチェーン技術を基盤としたペイメントネットワーク提供のため共同会社を設立したりと、分散型システムの到来を見据えています。
このように、ブロックチェーン技術は金融分野においては実用化が進められている段階です。
投機対象としてのイメージが強い仮想通貨も、三菱UFJグループの「coin」のように価格変動幅に対処するなど課題を解消することで、実用化の道を期待できるかも知れません。