国債に仮想通貨を検討するアフガニスタンとチェニジア
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- 2019.04.29.
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2019年4月8日から14日にかけてワシントンで開催された、世界銀行グループと国際通貨基金(IMF)の春季総会で、アフガニスタンとチュニジアの中央銀行総裁は「国債の発行に仮想通貨の利用を検討している」と発言しました。
もし実現すれば世界で初めての試みとなる、仮想通貨を用いた国債発行となります。
アフガニスタン、チュニジア両国の動向をもとに、国債に仮想通貨を導入する意味や理由を解説していきたいと思います。
アフガニスタン中央銀行総裁「自国産業への民間投資を調達するため」
アフガニスタンの中央銀行総裁・Khalil Sediq氏は「アジア・タイムズ(ASIA TIMES)」の取材に対し、「58億米ドルの資金調達のための手段として、ブロックチェーン技術を使用する仮想通貨での国債発行を真剣に検討している」と応えました。
ちなみに58億米ドルを現在のレートで日本円に換算すると、約6,470億円です。
国債発行によって調達した資金は、同国の重要な産業である鉱業、エネルギー産業、農業分野における民間投資として役立てる狙いがあります。
中でもとりわけアフガニスタンが重要視する分野が鉱業です。
Sediq氏によると、アフガニスタンの鉱物埋蔵量の価値は現在3兆ドル以上と推測されています。
特に、電気自動車の動力源として需要が増加しているのが「リチウム」です。
世界的に見ても電気自動車や大型バッテリーの製造量は急上昇しており、市場は長年にわたって堅調に推移しています。
今後も需要が高まる金属「リチウム」
「今後世界のリチウム需要は年間21%増加するだろう」との予想もあり、世界最大手のリチウムメーカー『アルベマール・コーポレーション (ALB) 』の株価はこの3年間でもっとも上昇しました。
アフガニスタンとしては仮想通貨を用いた国債発行で資金調達を急ぎ、リチウム需要の潮流に乗りたい考えがあるのでしょう。
参照サイト⇒Bloomberg Lithium Market Cheers as Top Supplier Sees Demand Driving Higher
チュニジア中央銀行総裁「ビットコイン国債の発行を検討する作業部会を創設した」
チュニジア中央銀行総裁で世界銀行の元職員・Marouane El Abassi氏は、北アフリカ諸国がビットコイン国債の発行を検討する作業部会を創設したことを発表しました。
さらにAbassi氏は、ビットコインとブロックチェーン技術が、中央銀行に
①マネーロンダリングの防止
②送金管理
③国境を超えたテロとの闘い
④灰色市場の抑制のための効率的なツール
を提供しうるものだと付け加えました。
海外諸国の仮想通貨導入事例
ここまで見てきたように、アフガニスタンは自国産業活性化のための資金調達手段として、チュニジアは従来の中央銀行の抱える課題を解決する手段として、ブロックチェーン技術を用いた仮想通貨での国債発行を検討しています。
仮想通貨に対する規制や法整備の進捗は国によってさまざまですが、国策として導入した事例も数多くあります。
ここからは、過去の海外における仮想通貨導入事例の中で、大きな話題となった2つの事例を見ていきましょう。
事例1.スウェーデンは法定仮想通貨「e-クローナ」の開発を加速
国内のキャッシュレス決済比率が9割を超えるスウェーデンは、法定仮想通貨「e-クローナ」の開発を進めています。
そもそもヨーロッパ諸国では5人に1人が「現金を持ち歩くことはほとんどない」といわれ、ベルギー、デンマーク、ノルウェーでは、デビットカードとクレジットカードの決済率が過去最高を更新しました。
とりわけスウェーデンにおいては、若い人々のキャッシュレス決済利用率が高いのが特徴で、現金決済をおこなう人は経済全体の1%に過ぎません。
これは、ヨーロッパ諸国の10%、アメリカの8%と比較してもきわめて低い割合であり、スウェーデン国内では現金を扱う銀行ATMの数も如実に減少しています。
また、「現金決済NG」の実店舗も増えています。
スウェーデン銀行協会の役員Leif Trogen氏は、「現金は追跡や維持管理にコストがかかるため、ほとんど使用されていない」と述べています。
このように国内のデジタルキャッシュ化が加速する中、同国中央銀行Riksbankは、法定仮想通貨e-クローナのパイロット版の発表を計画。2021年の流通開始をめざしています。
参照サイト⇒New York Times Sweden’s Push to Get Rid of Cash Has Some Saying, ‘Not So Fast’
法定仮想通貨e-クローナは現金と競合するものではない
「国が仮想通貨を発行する」と聞くと、「従来の現金が排除されるのでは?」といったイメージを抱いてしまいます。
しかしe-クローナは、現金との類似性を多く残すものであり、現金が存続することを考えて導入されているようです。
スウェーデン中央銀行Riksbankの総裁Ingves氏は、e-クローナについて「既存のシステムと連携し、個人の銀行口座で現金と交換可能でなければならない」と発言しています。
つまり、法定仮想通貨e-クローナはあくまで既存システムと並行するものであり、システムが1つだけの場合の脆弱性を軽減するためのものだということです。
参照サイト⇒SVERIGES RIKSBANK Ingves: The e-krona and the payments of the future
事例2. ベネズエラでは国家再建の礎に仮想通貨「ペトロ」発行
事例1で紹介したスウェーデンのe-クローナは既存の現金システムと並行するものでしたが、既存の法定通貨に取って代わる通貨として、新たに独自の仮想通貨を発行した国もあります。
仮想通貨「ペトロ(Petro)」を発行した、南米ベネズエラです。
2017年12月3日、ベネズエラのマドゥロ大統領は「アメリカ主導の経済制裁を回避して国内経済を建て直す」ことを狙いとして、仮想通貨ペトロの導入を発表しました。
当時、ベネズエラの法定通貨「ボリバル」は1年間で約3,700倍にまで急騰し、過去最悪のハイパーインフレに直面していました。
参照サイト⇒ロイター ベネズエラ、仮想通貨「ペトロ」導入へ 埋蔵資源が裏付け
そんな状況を抱えるベネズエラは、石油や天然ガス、金などの埋蔵資源を裏付けとした仮想通貨ペトロの発行によって、経済の立て直しと国民からの信頼回復をはかったのです。
2018年10月には、パスポートを受け取る際の唯一の支払手段をペトロに限定すると発表。
国家レベルで仮想通貨を発行し流通させる世界初の試みとして投資家からも注目が集まりましたが、次第に「ペトロは違法」「ペトロは詐欺コイン」「ペトロはただの国債だ」との批判の声が強まり、「仮想通貨発行を経済危機打開の突破口にしたい」というマドゥロ大統領の狙いははずれる形となりました。
ペトロは実質的に国債(国の借金)に似たものだと多くのアナリストは指摘する。また、米財務省もペトロの取引は経済制裁で禁じている政府との商取引にあたるという見解だ。
引用サイト⇒ニューズウィーク日本版 ベネズエラ版ビットコイン「ペトロ」は新手の仮想通貨詐欺
やがてアメリカではペトロの購入が禁止され、「ペトロ使用で原油購入30%購入」との提案も拒否されました。
まとめ
アフガニスタンは自国産業発展をめざす資金調達のために、チュニジアは現在の中央銀行の課題改善のために、仮想通貨による国債発行を検討しています。
また、スウェーデンのように法定通貨と併用する形で仮想通貨を発行したり、ベネズエラのように経済危機を脱するための手段として仮想通貨を発行したりするところもあります。
それぞれの結果や評判はどうあれ、既存の法定通貨や金融システムの不足を補うための選択肢として仮想通貨を選ぶ国家が増えてきました。
日本における仮想通貨は、まだ「投機対象」というイメージが色濃い状態です。
それは、2018年1月に発生した仮想通貨取引所からの仮想通貨流出事件、その後の仮想通貨事業者に対する行政処分ラッシュなどによって、ネガティブイメージが想起されてしまうからでしょう。
しかし今後、世界はますますデジタルキャッシュ化の方向に進みます。
これは日本でも例外ではありません。
2019年10月の消費税増税にともない、経済産業省が企業に対しキャッシュレス決済導入を後押ししていることからも、お金のあり方、ひいては経済のあり方が変容していくことはほぼ間違いないといえます。
日本より一足早く仮想通貨の導入・開発を進める海外諸国の動向に目を向けることは、私たち日本人にとっても有益なことではないでしょうか。