マネーフォワード仮想通貨取引所の新規参入を延期
- 取引所
- 2019.04.18.
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- マネーフォワード仮想通貨取引所の新規参入を延期
2019年4月15日、自動家計簿アプリやクラウドサービスを手がけるマネーフォワード(東京都港区)が、およそ1年3か月前から準備・開発を進めていた仮想通貨関連事業への新規参入を延期することを正式発表しました。
延期の理由についてマネーフォワードは、「仮想通貨マーケットの急速な冷え込み」のほか、「体制構築のためのコスト増」を挙げています。
「(仮想通貨交換業者として)金融庁への登録も間近か」と期待の声も高まっていただけに、マネーフォワード参入延期のニュースを聞いて落胆してしまったという方も多かったのではないでしょうか?
この発表を見て、
- 「マネーフォワードが仮想通貨事業への新規参入を延期した理由は?」
- 「今後の見通しは?延期ということは、参入再開のめどはついている?」
など、さまざまな疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
そこで本記事では、マネーフォワードが仮想通貨事業への参入を延期した理由や背景について、わかりやすく解説していきたいと思います。
新規参入発表から延期発表までの経緯
マネーフォワードによる仮想通貨事業への新規参入発表から延期発表までの経緯について、時系列で追ってみましょう。
まず、大まかな流れは下記の通りです。
- 2017年12月29日:「MFブロックチェーン・仮想通貨ラボ」を設立
- 2018年5月23日:仮想通貨交換所の開設予定を発表
- 2019年4月15日:仮想通貨関連事業への参入延期を発表
ここからは、それぞれの詳細を見ていきたいと思います。
1. 2017年12月「MFブロックチェーン・仮想通貨ラボ」を設立
2017年12月29日、マネーフォワードは、ブロックチェーン技術や仮想通貨を活用した送金・決済を研究する新サービス「MFブロックチェーン・仮想通貨ラボ」の設立を発表しました。
新サービス設立の背景として、従来の送金・決済領域において、既存の金融システムでは解決できていない課題があることを挙げています。
MFブロックチェーン・仮想通貨ラボでは、具体的に下記の項目実現を目指すことを発表しています。
- 送金・決済コストを従来の1/10にする
- より安全で利便性の高いサービスの提供
- お金が循環する社会の実現をめざす
これらを実現する手段として、マネーフォワードが「今後の金融インフラの中核となりうるポテンシャルを持っている」と考える仮想通貨を選んだというわけです。
参照サイト⇒マネーフォワード「MFブロックチェーン・仮想通貨ラボ」を設立
2. 2018年5月仮想通貨交換所の開設予定を発表
画像引用元⇒マネーフォワード
2018年5月23日、マネーフォワードは100%子会社「マネーフォワードフィナンシャル株式会社」の設立と事業概要を発表しました。
発表では、メディア事業、仮想通貨交換所、送金・プラットフォームの構築といった3つの新しいサービス実現に着手しているとのことでした。
- 「メディア事業」を開始(2018年夏予定)
- 「仮想通貨交換所」の開設(2018年内)
- 「送金・決済プラットフォーム」の構築(時期未定)
メディア、仮想通貨交換所、送金・決済プラットフォーム。
これらの構築を通じて、マネーフォワードは仮想通貨に関する「知る」「交換する」「利用する」のプロセスでソリューションを提供することを考えていたのです。
参照サイト⇒マネーフォワード「マネーフォワードフィナンシャル株式会社」を設立
上記3つの新サービスの発表に加え、さらにマネーフォワードは自社が運営する自動家計簿アプリに連携できる仮想通貨取引所を現行の3社(『bitFlyer』『Coincheck』『Zaif』)から、海外取引所も含む約20社に拡大することを発表します。
新たな連携先として、『BTCBOX』『bitbank』『QUOINEX』『FISCO』をはじめとする大手交換所の名前を挙げています。
連携先拡大により、取引所ユーザーに「複雑」「面倒」だと思われていた仮想通貨取引の損益計算および確定申告の円滑化をサポートしようと考えていたようです。
画像引用元・参照サイト⇒マネーフォワード 仮想通貨取引を行うユーザー向けソリューションを強化
3.【2019年4月】仮想通貨関連事業への参入延期を発表
ここまで見てきたように仮想通貨事業への新規参入に意欲的なマネーフォワードでしたが、2019年4月15日、参入延期決定を発表しました。
本件において決定された事項は、次のとおりです。
- 金融庁への交換業者登録に向けた手続の中止
- 仮想通貨取引所・交換書に関するシステム開発の停止
- メディア事業のサービス終了
- ブロックチェーン技術の研究中止
3つ目のメディア事業については、2018年9月から『Onbit』というサイトがサービスを開始していましたが、2019年5月31日にサービス終了予定となっています。
画面キャプチャ⇒Onbit トップページ
Onbitは2019年4月に入ってからも記事更新はあったものの、4月11日を最後に更新が途絶えています。
参照サイト⇒マネーフォワードフィナンシャル、仮想通貨関連事業への参入延期に関するお知らせ
新規参入を延期した2つの理由
仮想通貨事業への新規参入を延期した主な理由として、マネーフォワードは次の2つを挙げています。
- 仮想通貨マーケットの急速な冷え込み
- 体制構築にかかるコスト増(顧客の資産保護、マネーロンダリング対策など)
特に1つ目の「仮想通貨マーケットの急速な冷え込み」について、詳しく見ていきましょう。
「仮想通貨元年」と呼ばれた2017年12月、1ビットコイン(BTC)の価格は史上最高値となる200万円台を突破しました。
多くの著名人や芸能人が仮想通貨投資を始めたり、取引所のテレビCMが放送されたりするなど、仮想通貨が一般に広く認知された時期でもあります。
しかしその後、仮想通貨マーケットは次第に下降傾向を見せ、2019年4月23日時点のビットコインの価格は1BTC=60万円前後と、2017年12月の3分の1以下にまで落ち込んでいます。
2018年1月には、国内取引所『コインチェック』から巨額の仮想通貨が流出する事件が発生し、仮想通貨マーケットがさらに冷え込む大きな要因となりました。
しかし、マネーフォワードが仮想通貨交換所の開設を発表したのは2018年5月です。
2018年1月に発生したコインチェックの事故については、織り込み済みのはずです。
マネーフォワードフィナンシャル社長・神田潤一氏が、コインチェックの事故よりもさらに最大の誤算だったと見るのが、2018年9月に発生した国内取引所『Zaif』による仮想通貨流出事故です。
日経ビジネスのインタビューで神田氏は、「(Zaifの流出事故が発生した)あのタイミングでまた冷え込んでしまった」と言及しています。
Zaifの流出事故は、仮想通貨交換業者に対する行政処分が終わり、自主規制のガイドラインが出そうなタイミングで起きた。ようやく前向きに動き始めていた流れが、あのタイミングでまた冷え込んでしまった。仮想通貨の取引も細り、市況も冷え込んだ。
引用元⇒日経ビジネス 「ゴールが遠ざかっていった」仮想通貨事業撤退の神田社長が独白
事件発生当時、コインチェックは金融庁への登録が済んでいない事業者(みなし事業者)でしたが、Zaifは登録済み事業者でした。
それにも関わらず、顧客の預かり資産を守れなかったことから、仮想通貨マーケット全体に対するユーザーの信用が失われる結果となってしまいました。
マネーフォワードは、一度失われた信用を回復するには「それなりの時間を要する」という認識なのでしょう。
これらの出来事から、「仮想通貨事業を継続しても収益を上げられない」との考えに至り、参入延期の発表へと踏み切ったと考えられます。
新規参入に向けて再始動する見込みはあるのか?
仮想通貨関連事業への新規参入を延期したマネーフォワードですが、完全に断念したわけではありません。
「仮想通貨を取り巻く現在の状況は一時的なもの」と考えており、再びマーケットが熱を持ってきたタイミングを見極めて参入したいという思いがあるようです。
ただ、現在の状況がどのくらい続くのかは不透明であり、再始動の具体的な時期については言及されていません。
開発したシステムは売却せず自社の資産として持ち続け、マーケットやユーザの理解が進んだタイミングであらためて参入を図る可能性も残しています。
参照サイト⇒日経ビジネス 「ゴールが遠ざかっていった」仮想通貨事業撤退の神田社長が独白
まとめ
マネーフォワードが仮想通貨取引所の新規参入を延期した背景には、仮想通貨マーケットの冷え込みや、安全な体制構築への要請が大きく影響しているようです。
2018年1月以降、金融庁の規制が厳格化したことをきっかけに取引所開設を断念した企業もありますが、ひとまず現状は延期しておき、またマーケットが熱を持ってきたら参入の時期を見極めようという企業も多いでしょう。
仮想通貨取引所の運営事業者だけでなく、取引所を利用するユーザー一人ひとりがマーケットの一員として、仮想通貨の将来を冷静に見守っていくことが期待されます。