政府の仮想通貨呼称変更と法案について
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- 2019.04.18.
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仮想通貨を使った決済や投資をおこなったことがない人でも、「ビットコイン」と聞いたら「仮想通貨」の話をしているのだと分かるくらい、「仮想通貨」は今や一般にも広く浸透している呼称ではないでしょうか。
しかし、平成30年4月から同年11月にかけておこなわれた金融庁統括の研究会において、「仮想通貨」から「暗号資産」に呼称変更する審議がなされ、改正案が閣議決定されました。
2019年4月23日現在、呼称の変更時期については未定ですが、この記事をご覧になっている方は、
「仮想通貨から暗号資産に呼称を変更するのはなぜ?」
「仮想通貨の呼称変更にあたってどのような話し合いがなされたのか?」
といった疑問をお持ちの方も多いでしょう。
そこで本記事では、「仮想通貨」の呼称が「暗号資産」へ変更するに至った背景について、呼称変更に対する議論の経緯などをまじえながらご説明しましょう。
まずは、呼称変更についての議論をおこなった研究会が発足した背景についてです。
平成30年3月金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」を設置
平成30年3月8日、金融庁は「仮想通貨交換業等に関する研究会」(以下、「研究会」)の設置を発表しました。
研究会には、学識経験者や金融実務家などがメンバーとして参加し、仮想通貨交換業者などの業界団体や関係省庁がオブサーバーとして招かれました。
本研究会が設置された当時の背景には、仮想通貨をめぐる下記のような諸問題があります。
- コインチェック株式会社が運営する仮想通貨取引所が不正アクセスを受け、顧客からの預かり資産が外部流出するという事案が発生(平成30年1月)
- みなし登録業者や登録業者における内部管理体制などの不備が把握される
- 仮想通貨が決済手段としてではなく投機の対象となっており、投資者保護が不十分という指摘がある
- 証拠金を用いた仮想通貨取引(仮想通貨FX)や、仮想通貨による資金調達(ICO)など新たな取引が登場している
研究会発足以前にも金融庁は、仮想通貨交換事業者へ登録制を導入したり、仮想通貨交換事業者に顧客の本人確認を義務づけたりするなど、利用者保護に向けた一定の整備をおこなってきました。
しかし、その後も問題が解消されなかったり、新たに解消すべき課題が出てきたりしたため、本研究会を設置するに至ったのです。
参照サイト⇒金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」の設置について
呼称変更が検討された背景
そもそも資金決済法上で「仮想通貨」の呼称が用いられているのには、
- FATFや諸外国の法令で用いられていた「virtual currency」を「仮想通貨」と邦訳した
- 日本国内において仮想通貨という呼称が一般的に使用されていた
という経緯があります。
参照サイト⇒仮想通貨交換業等に関する研究会報告書
今回「仮想通貨」から「暗号資産」へ呼称変更が検討された背景には、次の2つがあります。
- 国際的に定着しつつある呼称「暗号資産(crypto-asset)」に合わせるため
- 「仮想通貨」という呼称が顧客の誤解を生みやすいと考えられるため
ひとつづつ詳しくご説明します。
背景1.国際的な呼称に合わせるため
そもそも仮想通貨の呼称については、国際的な標準用語があるわけではありません。
下記に挙げたように「仮想資産」と呼ぶところもあれば、「仮想資産」や「電子通貨」などと呼ぶところもあり、国ごとにばらつきがありました。
- Virtual currency(仮想通貨)
- Cryptasset/ Crypt-asset(暗号資産)
- Virtual asset(仮想資産)
- Digital asset(電子資産)
- Cryptcurrency(暗号通貨)
- Digital currency(電子通貨)
画像引用・参照資料⇒ケンブリッジ大学GLOBAL CRYPTOASSET REGULATORY LANDSCAPE STUDY(36p)
このような状況に対し、イギリスのケンブリッジ大学は「用語の定義と認識の違いが、世界各国の仮想通貨規制をはばんでいる最大要因である」とする調査結果を発表しています。
しかし、2018年冬に開催されたG20ブエノスアイレス・サミットの首脳宣言において“crypto-asset”(「暗号資産」)との呼称が使われたことからも、国際的には「暗号資産(crypto-asset)」という呼称が徐々に一般的になりつつあります。
そこで日本も国際的な動向に沿い「仮想通貨(virtual currency)」ではなく「暗号資産(crypto-asset)」を積極的に使用していこう、という考えが強まったのです。
これが、今回の呼称変更の背景の1つです。
背景2.顧客の誤解を生みやすいため
2つ目は、仮想通貨という呼称を原因とした顧客の誤解です。
仮想通貨という呼称には、法定通貨と区別する意味合いもあったのですが、それ以前に仮想通貨が「通貨」として機能するだろうとの期待もありました。
だからこそ「仮想」(法定通貨とは異なる)だけれども、「通貨」である、といった呼称があったわけです。
税制上の消費税の課税対応としても、仮想通貨は支払手段として扱われることになっています。
しかし、実際はどうでしょう。
支払手段として用いられることもあるにはありますが、現状において仮想通貨はほぼ投機(投資)対象として扱われています。
このように実態が通貨ではないものを「通貨」と呼ぶことは、人々の誤解を生んでしまうのではないか?
上記のような懸念が指摘されていたことが、呼称変更における2つ目の背景です。
呼称変更について研究会構成員の意見
こからは金融庁のホームページ上で公開されている研究会の議事録をもとに、「仮想通貨」から「暗号資産」への呼称変更に対する構成員の声をいくつか取り上げてみました。
岩下直行氏「仮想通貨は実態を反映していない用語」
改正資金決済法を検討する場合では、仮想通貨は通貨として機能するのではないかと期待していたが、現実はほぼ投機対象。
通貨として機能していないものを通貨と呼ぶのは、実態を反映していない。
参照サイト⇒金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第9回)議事録
井上聡氏「販売業務の規制も適正化する必要」
呼称を暗号資産とするだけでなく、販売業務に対する規制を適正化していく必要もある。
参照サイト⇒金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第10回)議事録
加藤貴仁氏「顧客の意識が明確化できる体制が望ましい」
呼称を変更した結果、暗号資産の内容が多様化し、規制上の取扱も多様化していくのではないか。
暗号資産を買う人にとって「自分が何を買っているのか」ということが非常に重要。
どんな種類の暗号資産を買ったかによって、自分が規制上どういった保護を受けているかを明確に意識できるような体制が望ましい。
参照サイト⇒金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第11回)議事録
まとめ
一般に広くなじんだ「仮想通貨」から「暗号資産」に呼称変更する背景には、
①国際的に「暗号通貨」という呼称がメジャーになってきていること
②「通貨としてよりも投機対象として扱われているという仮想通貨の現在の実態を反映させるべき」
という指摘の高まりがあります。
仮想通貨においては今なお誤解が多く、先行する詐欺まがいの事案に対して法規制が追いついていないという面もあります。
仮想通貨から暗号資産への変更によって、より実態に沿った呼称が普及するようになれば良いのですが、一方ではかえって顧客の混乱をさせたり、「仮想通貨とは違う新しいものが登場した」と誤解を引き起こしたりしてしまうのではないかとの懸念の声もあります。
研究会メンバーの加藤貴仁氏が発言したように、暗号資産へ呼称変更するとともに、利用者が、自分が買ったものはどのような規制を受けるのかということを明確に自覚できる体制づくりが必須だと言えます。