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米との対立で中国はデジタル人民元を加速するのか?

  • 考察
  • 2020.06.09.

新型コロナウイルスの感染拡大によって多くの死亡者を出している米では、トランプ大統領が中国を非難しており、それを契機として米中対立が激化しています。

 

また中国が香港に対して国家安全法を導入する動きに対して、米は対抗措置として香港に認めてきた優遇措置の撤廃を示唆しています。

中国にとって香港は国際的な貿易・金融センター的位置付けであり、世界の基軸通貨であるドルを入手するために必要不可欠な場所です。

 

その香港が機能不全に陥ると、中国はどういう対抗措置をとっていくのでしょうか。

中国は現在デジタル人民元を運用するべく準備を進めていますが、香港に関する一連の出来事は、デジタル人民元の今後のスケジュールに影響するのでしょうか。

 

これらのことについて考えてみましょう。

 

中国が香港に国家安全法制導入を決定

中国の国家最高権力機関である全国人民代表大会(略称:全人代)が2020年5月22日から28日に開催され、その中で長く反政府活動が続いている香港に対し、反政府的な動きを取り締まることができる「国家安全法制」を導入することが決定しました。

 

これは全人代の参加者による投票で採決され、国家安全法制導入に対する賛成票は2878票、反対票が1票、棄権票は6票の賛成多数で議決されたものです。

NHK 全人代ニュース

画像引用:NHK

 

国家安全法制導入の決定は、すなわち今後香港での治安維持は中国政府がおこなうことを認めるということであり、そのために必要な法律制定だけでなく、香港に中国の治安部隊が常駐することになります。

 

そして国家の安全に危害を及ぼすような行為だけでなく、諸外国が香港に干渉することを禁止し、これに抵触したものは処罰することができるというものです。

 

トランプ大統領は香港の優遇措置廃止を表明

中国の香港における国家安全法制導入の決定は、香港が英から返還される際に取り交わした1984年の中英共同宣言、すなわち返還後50年間は「一国二制度」を維持するとした宣言に抵触する可能性があります。

 

米トランプ大統領は、中国のこの決定は中英共同宣言に違反し、「一国一制度」に変えたものだと主張しており、香港の優遇措置撤廃の手続きをとると表明しました。

そればかりか香港の自治を侵害した場合、それに関与した中国政府および香港政府の当局者に対しては制裁を科すことを述べています。

 

米による香港の優遇措置とは

米はこれまで香港に対して、中国本土とは異なる優遇措置をとってきました。

その優遇措置は、米と香港の関係性維持や国際協定・貿易面、通商面、運輸面、文化・教育面など多岐に渡っています。

 

そしてこれらの中でも影響が大きいのではと想定されるのが、以下のものです。

 

香港との間に存在する犯罪者の引き渡し条約やデュアルユース品目(軍事・民生ともに利用できる品目)の輸出管理に関する例外措置の取り消し、国務省による香港への渡航注意情報の勧告レベルの見直し、中国本土とは異なる関税圏・渡航圏としての香港の扱いを取り消す措置も行っていくとした。

引用:JETRO ビジネス短信

 

さらに米と香港の通商面において特筆すべきは、「米国ドルと香港ドルの自由両替の継続」が含まれているということです。

つまり、これまでは米ドルと香港ドルは誰もが自由に両替することができたわけですが、それも廃止するとトランプ大統領は表明していることになります。

 

米ドルと香港ドル

では米ドル(USD)と香港ドル(HKD)の関係性とはどのようなものなのでしょうか。

香港ドルとは、米ドルにペッグした通貨です。

1USDあたり7.75HKDから7.85HKD付近で為替は推移しており、この範囲から値動きが逸脱した場合には香港政府が介入して価値を調整しています。

そのため、米ドルと香港ドルの値動きはほとんど同調しており、米ドル高になれば香港ドルも高くなるという動きになります。

 

トランプ大統領の香港に対する優遇措置撤廃表明が、どこまでのものを視野に入れているのかは不明ですが、香港ドルが自由に米ドルと両替できなくなる可能性は否定できません。

 

中国における香港の意味

では中国における香港とはどのような意味があるのでしょうか。

 

香港はこれまで「国際金融センター」として位置づけられており、中国にとって代替えすることができない地域でした。

 

それは米が中国製品に対して課している関税は、香港には適用されないこと。

香港の通貨や株式、債券などを活用して、海外の資金、特に米ドルを呼び込んでいること。

また中国に進出を目論む海外企業が香港を足掛かりにしているだけでなく、中国に対する投資はそのほとんどが香港経由であること。

中国が資金調達する際、例えば新しく株式公開する際の資金調達は、香港で上場した企業を通じておこなうのが一般的であることなどから、香港がいかに特別な地域であったことが分かります。

 

香港はもちろん米以外の国の外貨を得ることに大きく寄与していますが、やはり最も大きなものは米ドルの獲得といえます。

つまり香港は中国のもう一つの顔として、外貨特に米ドルを取り込むためになくてはならない存在だったわけです。

 

それは米ドルが世界の基軸通貨として圧倒的な力を保持しており、中国が経済大国となった現在でも人民元は基軸通貨にはなり得ておらず、未だ米ドルに取って代わることができていないため、米ドルが必要だったということです。

 

デジタル人民元を加速するのが打開策になるか

上記のように、米が香港の優遇化措置を撤廃してしまうと、中国経済は非常に苦しい立場に追いやられてしまいます。

しかも新型コロナウイルスによって、中国経済は非常に苦しくなってきています。

新型コロナウイルスで経済が苦しくなっているのはもちろん中国だけではありませんが、中国の場合、一党独裁を維持できているのは経済が成長することによって国民生活が向上し、富裕化できていたからです。

 

それができなくなり、香港もこれまでのように当てにできなくなるわけです。

当然、国民生活は苦しくなり、中央政府に対する非難の声も大きくなってくるでしょう。

一党独裁が危うくなってきます。

 

さらに、米ドルがこれまでのように入手できなくなってくるわけですから、世界的な影響力も著しく低下してきます。

 

これらを打破できるのがデジタル人民元ではないかと考えられます。

デジタル人民元は、当初から中国国民の個人情報を把握すること、さらに世界の基軸通貨である米ドルに対抗することが真の狙いであるとされてきました。

 

一党独裁に反発する人物の個人情報や動きを把握することができれば、国内の不穏分子を抑え込むことができます。

さらに米ドルが入手しづらくなっても、対抗していく術があるのです。

そうなれば、一刻も早くデジタル人民元を運用することに漕ぎ着けようと考えるのではないでしょうか。

 

現在デジタル人民元はテスト段階にあり、特定の組織で給与支払いなどにテストされている段階で、実際の運用はまだ先だといわれていました。

しかし香港の状態や中国の経済状態を考え合わせると、現状の問題点を解決に導けるのはデジタル人民元だけであり、一刻も早く運用を開始しなければならない状態になっているといえるのではないでしょうか。

 

まとめ

中国が香港に国家安全法を導入することで巻き起こっている様々な問題と、それを中国が解決するため、デジタル人民元を早期に運用するのではないかという可能性についてご紹介しました。

 

実際にデジタル人民元の運用を速める動きは報道されていませんが、デジタル人民元の本来の狙いを考慮すると、運用が早期に開始される可能性は十分にあるはずです。

 

そしてもしデジタル人民元が早期に運用開始されると、中国の動きを警戒する各国でCBDCの開発がさらに進むのかもしれません。

 

デジタル通貨の導入理由や早期化の理由は本来、国民のことを考慮した結果であって欲しいですが、実際には国同士の勢力争いの道具に使われてしまうのでしょうか。

中国のデジタル人民元の動きだけでなく、諸外国のデジタル通貨の動きにも注目しておきましょう。

 

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