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いよいよ米中のデジタル通貨覇権争いが始まるか

  • 考察
  • 2019.11.06.

中国の習近平国家主席が党中央委員会の席上、ブロックチェーン技術の重要性を説いた途端にビットコイン価格が急上昇したのは記憶に新しいですが、今度はFRB(米連邦準備制度理事会)がブロックチェーン技術やデジタル通貨、ステーブルコインなどの開発研究を進められる人材を募集し始めました。

 

いよいよ米中間でデジタル通貨の覇権争いが始まるのでしょうか。

米中それぞれがデジタル通貨を開発するに至った背景についてご説明しましょう。

 

FRBがデジタル通貨関連マネージャーを募集

2019年11月4日、FRB(米連邦準備制度理事会)がブロックチェーン技術だけでなく、デジタル通貨やステーブルコインについての知識があり、研究を進めるうえでの決済関連を担当するマネージャー職を募集しています。

なお職務上、金融政策や金融規制などにおける課題を解決するための基礎知識や経験も求まられており、これらのことにも取り組んでいく必要があるようです。

 

この求人そのものは現在見られなくなっていますが、FRBがデジタル通貨関連技術をこれまでの活動に組み込もうとしていることや、これに関する求人を出すことは初めての試みです。

 

求人を出すに至った背景

これまでFRBは話題になっているフェイスブックの仮想通貨リブラに対しては、その有用性は認めるものの、リスクも大きいとして慎重な姿勢を崩すことはありませんでした。

それが一転してこのような求人を出しているのには、背景にどのようなことがあるのでしょうか。

 

米下院公聴会でのザッカーバーグCEO発言

フェイスブックのザッカーバーグCEOが仮想通貨リブラに関する米下院公聴会で、中国のデジタル通貨が発行間近と伝えられていることから、このままでは米ドルが世界の通貨基軸の座を奪われかねないことを主張していました。

 

おそらく公聴会に出席していた議員は、リブラのことは認めたくなくても、この主張には納得したのではないかと考えられます。

 

米議員からの書簡

米下院議員のFrench Hill議員とBill Foster議員が、2019年9月30日にFRBの議長であるJerome Powell氏に対して、米ドルのデジタル通貨を発行すべきであるとした書簡を送っています。

coindesk 米議員からFRBへの書簡

画像引用:coindesk

 

この書簡では、中国のデジタル通貨やフェイスブックのリブラなどが発行された場合、どのようなリスクがあるのかを考慮し、FRBとして米ドルのデジタル通貨発行を考えているのかを問う内容などが書かれています。

さらに、FRBは一刻も早く米ドルのデジタル通貨開発に取り組むべきであるとも主張した内容も書かれています。

 

中国デジタル人民元の具体化

上記の二つに加え、最もFRBをデジタル通貨に向かわせた要因が、冒頭でも説明した中国の習近平国家主席の発言でしょう。

この発言によって中国はブロックチェーン技術の開発が加速しています。

加えて2019年10月28日には、中国の中央銀行にあたる中国人民銀行が正式にデジタル人民元の発行を認めています。

 

そればかりか、11月4日には中国人民銀行に属するデジタル通貨リサーチ機関が、中国の通信企業であるHuaweiとも提携したことが明らかになっています。

これはHuaweiがWeChatの公式アカウントで発表しています。

 

この発表では、提携内容の詳細は明らかになっていませんが、中国人民銀行が大手とはいえ民間企業と提携するのは初めての試みのようです。

Huaweiが中国人民銀行と提携

画像引用:weixin

 

中国に後れを取っているFRB

中国はブロックチェーン技術の活用とデジタル人民元の発行に向けて、着々と準備を整えつつあります。

 

その一方で、FRBはこれまでデジタル通貨に対して消極的であり、報道でもその姿勢が問題視されていました。

米の大手総合情報サービス企業であるBloombergは「Fed Drags Feet as Digital Money Challenges Central Banks(デジタルマネーが中央銀行に挑戦する中、FRBは足を引きずる)Google翻訳」と題したニュース記事を報道しています。

Bloomberg

画像引用:Bloomberg

 

この報道の中で、IMF(国際通貨基金)のディレクターであるTobias Adrian氏の意見を紹介しています。

その意見は、今後一気に新しい決済システムに向かう可能性が高く、米だけでなく他の国々も大きな混乱に直面するのももう間もなくのことであるというものです。

さらにFRBは米国内だけで利用できる決済システムを検討中であるものの、具体的な案がなく、無策であることを批判する内容になっています。

 

これらの報道からは、FRBは明らかに中国に対して後れを取っていることがみてとれます。

 

中国のデジタル人民元にかける意欲

デジタル通貨に対してやっと一歩を踏み出したばかりのFRBに比べ、中国のデジタル人民元に掛ける意欲は並々ならぬものがあります。

 

そもそもデジタル人民元の開発には5年の月日をかけているといわれており、前述した中国人民銀行のデジタル通貨リサーチ機関も2017年1月に設置されているため、丸2年経過しているわけです。

さらに、このデジタル通貨リサーチ機関を率いているのは技術系の官僚です。

 

また中国は米のデジタル通貨については全く眼中になく、ライバルとして位置付けているのはフェイスブックの仮想通貨リブラのようです。

このことは今回中国人民銀行と提携したHuaweiのCEOでもあるRen Zhengfei氏の発言からも読み取ることができます。

Ren Zhengfei氏は元々中国のデジタル人民元を支持していましたが、中国の力は民間企業よりも強く、リブラが発行されることを待たなくても中国でデジタル通貨を発行できるという主旨の発言をしています。

 

中国がデジタル通貨を発行する狙いとは

これほどまでに中国がデジタル通貨にこだわるのにはどのような理由があるのでしょうか。

もちろん米中貿易戦争が背景にあることは間違いないでしょう。

中国のデジタル人民元が広く出回ることで、現在の世界通貨である米ドルの地位を奪うことができる可能性も高まるでしょう。

そうなると世界経済をコントロールすることも可能になるはずです。

 

そしてもうひとつの狙いとしていわれているのが、中国国内での支配力を高めるためではないかということです。

ブロックチェーン技術を活用するデジタル人民元が中国国内で主流になると、いつ、どこの、誰が、どういう行動をしているのか把握するのは容易になります。

 

また政治思想的に危険人物だと判断できれば、その人物がデジタル通貨を使えなくすることも簡単でしょう。

もちろん、送金・受金などをできなくすることも簡単にできてしまいます。

つまり国内の通貨の流れを全て把握し、コントロールすることで、国の安定化を図る狙いがあるのではないかといわれているのです。

 

これは現在の人民元では達成することは不可能です。

現金を持たれてしまうと、どこでも使うことができるため、支配力を高めることは難しいというわけです。

 

まとめ

米中のデジタル通貨に関する現状と背景についてご説明しました。

現状では明らかに米が劣っている状況であり、デジタル人民元の方が先に運用されるようになるでしょう。

おそらくそうなってからFRBは慌ててデジタル米ドル発行を急ぐのではないでしょうか。

 

デジタル人民元の登場は、世界経済の勢力図を大きく塗り替えてしまうかもしれません。

果たして米はそれを防ぎ、世界の基軸通貨である米ドルの地位をデジタル通貨でも守り抜くことができるのでしょうか。

デジタル通貨の重要性に今更ながら気付いた米は、今回のデジタル通貨関連マネージャー募集から分かるように、遅ればせながらやっと覇権争いに参加したのかもしれません。

 

リブラを否定しながらも、その有用性を認めるのであれば、時代はもはやデジタル通貨を必要としています。

FRBは一刻も早くデジタル通貨発行にこぎつけて欲しいものです。

 

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