バイナンスのVenusは政府がコントロール可能に
- 仮想通貨関連
- 2019.09.20.
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画像引用:BINANCE
フェイスブックの仮想通貨リブラは世界中の金融規制当局から大反発を受けていますが、リブラと似た特徴を持つ仮想通貨ヴィーナス(Venus)の発行を大手仮想通貨取引所Binanceが計画していることは2019年8月22日の「Binanceが新たな独自通貨Venusについて発表」でもご説明しました。
その仮想通貨ヴィーナスに関して、9月第2週に開催されたOECD グローバル・ブロックチェーン・ポリシー・フォーラムでBinance関係者が、政府のコントロールの下にある仮想通貨であるとの方針を述べました。
これは当初BinanceのCEOであるChangpeng Zhao氏が説明していた内容と、微妙にスタンスが異なってきています。
このニュースについて詳しくご紹介するとともに、仮想通貨ヴィーナスの当初の考えからの変化、そして仮想通貨リブラとの決定的な違いなどについてもご説明しましょう。
Venusはリブラのライバル発言
2019年9月12日と13日、パリにおいて経済協力開発機構(OECD)主催のグローバル・ブロックチェーン・ポリシー・フォーラムが開催されました。
その中で大手仮想通貨取引所BinanceのチーフコンプライアンスオフィサーであるSamuel Lim氏がメディアに対して、ヴィーナスはリブラにとって競合のような存在であると話していたことが分かりました。
画像引用:Binance Twitter (写真右がSamuel Lim氏)
なおグローバル・ブロックチェーン・ポリシー・フォーラムでは、フェイスブックのリブラを運営するリブラ協会が「ステーブルコインの世界へ」と名付けた題目で講演を行っています。
その会場でBinance側がヴィーナスはリブラのライバルであることを明言したわけです。
当初BinanceのCEO Changpeng Zhao氏は、ヴィーナスとリブラとの関係性について、ライバルではなく共存することを考えていると説明していました。
またヴィーナスのプロジェクトそのものが、リブラ構築に役立つとも述べています。
この変化は、ヴィーナスのプロジェクトが検討される過程でリブラとの関係性に変化が出てきたと解釈できます。
では現在考えられている仮想通貨ヴィーナスとはどのようなものなのでしょう。
Samuel Lim氏が説明したヴィーナス像
Samuel Lim氏はBinanceのヴィーナスについて、現在は途上国の中央銀行だけでなく規制当局と色々な協議を進めている段階であることを述べています。
その協議の中で、もしリブラが導入されることになれば、自国通貨の主権が瞬時に失われることを危惧していることや、極度のインフレ状態が国民をリブラに走らせてしまう懸念を示したそうです。
その危惧に対しBinance側は、ヴィーナスはリブラと違ってどんな力も政府から削ぐことはないと断言したとのことです。
ヴィーナスをどうやって担保するか、何枚発行するかもその国の政府が決めることであり、あくまでも政府に管理できるものであること。そしてヴィーナスを裏付けるための通貨準備量も中央銀行が決めるものであると説明したそうです。
つまりヴィーナスはBinanceが運営するものではなく、各国の政府や中央銀行が運営するものであり、Binanceはヴィーナスを作るためのブロックチェーンであるバイナンス・チェーンを提供する立場であると説明したわけです。
また途上国がヴィーナスを導入する効果として、中央銀行にとってこれまでにない選択肢ができること、銀行口座を持つことができない途上国の国民が流動性を得ることで、グローバル市場への参入の可能性も言及しています。
これらの説明をしたうえでSamuel Lim氏は、今後3~6ヶ月で政府や中央銀行だけでなく、大手企業とのパートナーシップにつながることにも自信をのぞかせています。
フェイスブックのリブラとの違い
ここで改めてヴィーナスがフェイスブックのリブラと大きく異なる点を整理してみましょう。
運営主体が異なる
ヴィーナスのプロジェクトが今回の報道通りだとすると、ヴィーナスとリブラが最も異なる点は、運営母体です。
ヴィーナスが各国の政府や中央銀行に運営を委ねるのに比べ、リブラは世界の大手企業が参画するリブラ協会が運営するとされています。
すなわち、大手企業の都合の良いように通貨がコントロールされてしまうのではないかという危惧が生じてきます。
流通エリアについて
リブラは前提として世界中の国を対象としています。
しかも米ドルなど、複数の通貨にペッグしたステーブルコインであるため、もし自国に政情不安や経済不安、紛争などが起きた場合には安定通貨である米ドルなどに流れてしまう可能性があります。
こうなると法定通貨の概念そのものが崩れてしまいかねず、国の経済や金融政策が成り立たなくなってしまいます。
一方、ヴィーナスが運営を各国に全て委ねるとするなら、ペッグするのを自国通貨だけに限定し、他国の法定通貨に換金することを禁止するのも各国の判断に任せることになります。
その国の都合の良いように活用することができるわけです。
プロジェクト企業に対する潜在的な不信感
仮想通貨の特性などではないですが、プロジェクトを運営している企業に対する不信感も大きく影響しているはずです。
特にリブラプロジェクトを推進するフェイスブックはこれまでに何度も個人情報漏洩をしています。
つまり個人情報保護が重要視される仮想通貨において、リブラを購入した人々の個人情報が保護されるとは考えにくくなります。
一方、ヴィーナスのプロジェクトを推進するBinanceも過去に45億円相当の仮想通貨がハッキングされたり、顧客のKYC情報と呼ばれる写真やパスポート画像、IDなどが漏洩して、その情報と引き換えにビットコインを渡すよう脅されたことがあります。
しかしBinanceがフェイスブックと異なったのは、事件が発覚したすぐ後にSNSなどで事件の経緯を発表するなど、透明性を保っていた点です。
この透明性の高さがかえってBinanceの評価を高めることになっていきました。
フェイスブックにはこの透明性の高さが見受けられません。
つまり企業に対する潜在的な不信感の差が大きく、リブラは余計に悪く受け止められているともいえます。
リブラに対する直近の反応
上記のことが影響してか、リブラに対する風当たりは相変わらず厳しいようです。
先週にはフランスの財務相であるBruno Le Maire氏が、通貨主権が脅威にさらされているとけん制しています。
また9月18日にはドイツがリブラだけでなく、ステーブルコインを「法定通貨に並行する通貨」と位置付け、発行を禁ずることを内閣で承認しています。
フェイスブックの子会社でリブラ協会にも加盟しているカリブラ社のCEOであり、米公聴会でも証言台に立ったDavid Marcus氏はこれらの意見や動きに対し、リブラは決済ネットワークとシステムをこれまで以上に良くすることを狙ったものであり、各国の中央銀行の通貨発行に対して影響しないと反論しているようです。
しかしホワイトぺーパー発表後からこれまでの間で、リブラに対する各国政府や金融規制当局の警戒心を解くには至っていません。
画像引用:David Marcus Twitter
リブラの欠点を参考にできるヴィーナス
リブラと比較して、ヴィーナスに対する批判の声が聞こえてこないのには理由があります。
それはヴィーナスが、リブラに対する批判の声や反対する理由を参考にしながらプロジェクトを進めているからではないかということです。
リブラはまず最初にホワイトぺーパーを公開し、プロジェクトの構想全体を明確に打ち出してきました。
対するヴィーナスは、現時点でも全体像をはっきりと公表していません。
その理由はおそらく、リブラに対する各国や金融規制当局などの反応を確かめつつプロジェクトを構築していけば、多くの人々が満足すると同時に、批判が出ることもないと考えているのではないでしょうか。
つまりリブラを様子探りに利用しているのではないかということです。
「Samuel Lim氏が説明したヴィーナス像」の項でも説明したように、Binanceはヴィーナスを途上国中心に展開していくことに主眼を置いているようです。
またChangpeng Zhao CEOが、当初はリブラと共存するものと話していたのが、いつの間にかライバルに変化していることもこのような事情からではないでしょうか。
まとめ
Binanceの仮想通貨ヴィーナスは、途上国の政府がコントロールできうるものであることについて、その背景も含めてご紹介しました。
リブラに対する世の中の反発やヴィーナスの状況を考えると、実際に発行できるのはヴィーナスの方が先になるかもしれません。
ご紹介した背景を考えながらリブラとヴィーナスの動きを見ていると、興味深いものになるのではないでしょうか。